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第四章 十
炭治郎と善逸から、普段の伊之助はこうじゃない、と説明され、那田蜘蛛山で三人ともひどい怪我をしたと聞き、深月は眉を下げた。
「そうだったの……だから、伊之助君は喋れないのね。みんな頑張ったんだね」
彼らはまだ剣士になりたてで、階級も低い。
あの山の鬼は、柱や深月にとってはなんともない相手でも、彼らからすると相当強い敵だったことだろう。
それでも、彼らは鬼を倒そうと懸命に戦ったのだ。
それを凄いとも思うし、怪我を可哀想だとも思い、深月は悲しそうな顔になる。
それを見て、炭治郎が穏やかな笑みを浮かべる。
「深月さんは、すごく優しいにおいがしますね」
「え?におい?」
どういうことだろうか、と深月は首を傾げた。
聞けば、炭治郎は鼻が、善逸は耳が、それぞれ良いらしい。伊之助は感覚に優れているのだとか。
それによって、人の心がわかったり、鬼の居場所を判断したりできるとのこと。
「すごい!いいなあ!」
深月はパッと顔を明るくさせる。
なんと優れた能力なのか、と単純に感心する。
そういえば、記憶違いでなければ彼らの同期のカナヲは目が良かったはずだ、と思い出す。
深月も、鬼の気配くらいは判断できるが、それはきっと伊之助には遠く及ばない。
そもそも、気配に気付く頃には、鬼が近くに居ることがほとんどだ。
すごいすごい、と子どものようにはしゃぐ深月を見ながら、善逸は耳を澄ませた。
(少し、悲しい音が混ざってるんだよなあ)
ころころ表情を変える深月は、ほぼ表情通りの音をさせている。
しかし、まだ子どもの自分達を思ってなのか、その全てに少しずつ悲しそうな音が混ざっていた。
こんなに綺麗で優しい人が、どうして鬼狩りなんてやっているのだろう、と善逸は首を傾げた。
そこで、深月は思いの外時間が経っていることに気付く。
「私、任務に行かなくちゃ!」
立ち上がって、羽織や隊服の裾を整える。
「アオイちゃん達にお菓子持ってきたんだけど、たくさんあるから食べてね」
最後に三人の頭をそれぞれ撫でてから、深月は病室を後にした。
*****
数日経てば、腹部の痛みは大分治まった。
痛み止めは効いているし、一緒に処方してもらった塗り薬であざも消えつつある。
任務明けの朝。煉獄家に帰りついた深月は、自室の姿見の前で隊服を脱ぎつつ傷を確認する。
「やっぱり、しのぶさんってすごい」
しのぶは年下で、杏寿郎より早く柱になって、蝶屋敷の主人としても頑張っている。
煉獄家で世話になっている自分とは大違いだ。
そう考えつつも、今の生活が気に入っている深月は、あまり自身を責めたりはしない。
傷も確認したことだし、と新しい襦袢に手を伸ばしたところ、障子が遠慮なく開かれた。
そこには杏寿郎が居て、深月は困惑する。
何故、入る前に声を掛けてくれなかったのだろう、と。
着替えるために一旦全て脱いでしまっていたので、深月は今、何も身に纏っていない。
「すまん!着替え中だったか!」
杏寿郎は謝りつつも、部屋に入ってきて、後ろ手で障子を閉める。
「謝るくらいなら出て行ってくださいよ!」
深月は慌てて新しい襦袢に袖を通し、体を隠す。
それだけでは心許ないので、しゃがんでから、着ようと思っていた道着にも手を伸ばすが、その手は杏寿郎に掴まれてしまう。
そのまま杏寿郎の方を向かされ、襦袢を開かれる。
突然のことに、深月は悲鳴を上げるのも忘れて硬直する。脚だけはなんとか閉じた。
杏寿郎はそっと、深月の腹のあざに触れる。
「まだ痛むか?」
「もう治りかけですから、大丈夫ですよ」
蝶屋敷でしのぶに診てもらったと伝えたはずなのに、と深月は溜め息を吐く。
まさか、傷を確認するためだけに来たのだろうか。
もし、自分が服を着ていたら、それを剥ぐつもりだったのだろうか。
そんなことを考えて、深月は再度溜め息を吐く。
「あの、そろそろ離してください……恥ずかしいです」
脚は閉じているし、胸も一応襦袢で隠れてはいる。
しかし、障子を閉めていても部屋は明るいし、胸元も腹も見えている。
杏寿郎は深月の襦袢を閉じてやり、少し離れる。
深月は安心して着替えを続行する。
それを眺めながら、杏寿郎はふっと笑った。
「深月。俺に何か隠していないか?」
「えっ……」
どきり、と深月の心臓が跳ねる。
隠し事なら、大きいのが一つある。『下弦の陸を倒しました』というとびっきりの秘密が。
しかし、それは口止めを徹底したはずなので、杏寿郎には伝わっていないはずだ。
「特に思い当たることはありませんけど」
深月は着替えを続けながら、何事もなかったかのように言う。
すると、杏寿郎の眉がぴくりと動いた。
「そう言えば、罰は与えたが躾がまだだったな」
『躾』という言葉に驚いて、深月は勢いよく杏寿郎を振り向く。彼の顔は、にっこりと笑っていた。
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