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放課後。ファミレス。その一角。
五人の男子高校生が、ドリンク片手に談笑している。

彼らの前には、それぞれ注文した料理が並べられていて、一人を除いて、夕食前の食事を摂っている。

その中でも一番体格のいい男子が、燃えるような髪色をした男子に話し掛ける。

「煉獄よお、あいつとはどうなんだ?」
「別段変化はない!その質問は昨日もされたぞ!」

煉獄杏寿郎の返答に、他の男子のうち三人は彼を憐れむように溜め息を吐いた。

残りの一人──冨岡は、せっせと料理を口に運んでいる。
話は聞いているが、食事をしながら会話ができないのだ。

「いつまでそのままなんだァ?」
「あいつは、はっきり言われないとわからないタイプだろう」

不死川と伊黒は、憐れんだ目で杏寿郎を見る。
ちなみに、食の細い伊黒だけが、何も食べずにドリンクだけを手にしている。

杏寿郎は「むう」とだけ言って、何かを考え込むように黙ってしまった。

彼らの話題に上がっている『あいつ』とは、杏寿郎の幼馴染みの少女のことなのだが、彼女はこの場に居ない。

それでも、この五人が会えば、毎日のように話題に上る。

それは、杏寿郎がその少女に長年片想いをしているからなのだが、それ以外にも理由はある。

彼らには、前世の記憶というものがある。
五人とも、百年程前に人喰い鬼を相手に戦った剣士の生まれ変わりだ。剣士の中でも、最高位の柱だった者達だ。

話題に上っている少女も、同じように剣士の生まれ変わりで、彼らと共に戦っていた。杏寿郎とは、前世で結ばれた仲である。

唯一、彼らと異なるのは、彼女には前世の記憶がないという点だ。

記憶がある彼らと、記憶がない彼女では、お互いの距離感の認識に随分と差がある。

彼らにとって、彼女は共に戦った戦友だ。つい世話を焼いてしまう。
特に杏寿郎にとっては、この上無く大切な人で、今生でも結ばれたいと思っている。

しかし、だ。記憶がない彼女にとって、彼らは『杏寿郎の友人。しかも変わっている』という認識で、杏寿郎のことはただの幼馴染みとしか思っていない。

この想いの差がどうしても埋められず、杏寿郎は彼女に想いを告げられずにいる。

「もう記憶関係なく告っちまえばいいじゃねえか」

宇髄は適当に言って笑うが、杏寿郎は頑固だった。

「あの子は、俺のことを幼馴染みとしか思っていない!告白などされれば困るだけだろう!」

告白なんかして、関係が歪むのは避けたかった。

杏寿郎と冨岡以外は、呆れたように溜め息を吐く。

そこで、一人の少女が店に入ってきて、すぐに彼らを見つけ駆け寄ってくる。

それに気付いた杏寿郎は、嬉しそうに目を細める。

「深月!」

駆け寄ってきた少女の名前を呼んで、彼女の手を取る。
深月はふわりと微笑んで、杏寿郎の手を握り返す。

「遅くなってごめんね、杏寿郎」
「大丈夫だ!皆と話していた!」

杏寿郎は深月の手を引き、自分の隣に座らせる。
深月は改めて、杏寿郎以外に笑い掛ける。

「お邪魔します。みんな、相変わらず仲良しだねえ」

深月は、基本的に杏寿郎と一緒に登下校をしている。
今日は委員会が長引くという理由で遅くなり、杏寿郎は学園近くのファミレスで、宇髄達と談笑しながらそれを待っていたのだ。

杏寿郎は深月の前にメニュー表を差し出し、何か頼むかと尋ねる。
深月が俯いてメニューを眺めると、杏寿郎は彼女の顔に自分の顔を寄せ、一緒にメニュー表を眺める。

それに気付いた深月は、さして驚く様子もなく、くすっと笑って杏寿郎の方を少し振り向く。

「杏寿郎も何か頼むの?」

お腹空いてるのね、と動く彼女の唇は、今にも杏寿郎の頬に当たりそうなくらいだ。

宇髄、不死川、伊黒の三人は、本日何度目かわからない溜め息を吐いた。

こいつら、これで付き合ってないのか、と。





 




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