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(杏寿郎は、私に似合う水着を考えてくれないのかな……)
そんなことを考えながら溜め息を吐いて、否、杏寿郎に水着姿を見せる予定なんかない、と不貞腐れる深月。
杏寿郎は困ったような顔で、宇髄から雑誌を受け取り、しばらく眺めてから、深月の前にそれを差し出す。
「これなんか、いいんじゃないか?」
その一言に、不貞腐れていた深月の顔がパッと明るくなる。
自分のために選んでくれたのだ、と思うと一気に嬉しくなって、雑誌をのぞきこんだ──が、しかし、彼女のテンションはあっという間にだだ下がりになった。
あからさまにげんなりする深月を見て、宇髄も雑誌をのぞきこむ。そして、「はあ?」と声を上げた。
「煉獄、これ本気で言ってんのか?」
「ああ! これなら心配ない!」
杏寿郎はいつもの太陽のような笑顔を浮かべる。
深月にとって、今はその笑顔が恨めしくてしょうがない。
彼が選んだのは、五点セットの水着だった。
セットの内容は、ブラ一体型トップスとショーツのタンキニに、ショートパンツ。ここまではよかった。
あまり可愛くはなかったが、スポーティーなのが好きなのだろうか、程度には深月にも思えた。
だが、あとの二点は足首まであるレギンスと、長袖のラッシュガードだ。
深月はフィットネスに行くわけでも、ライフセーバーのバイトしに行くわけでもない。可愛い水着を着て、友達と遊びに行きたいのだ。
しかも、このラッシュガードは胸元までしかファスナーがないタイプだった。
「暑そう……」
深月の口から出た感想はそれだった。
宇髄がまた腹を抱えて爆笑している。
深月はもはや怒る気にもなれず、大きな大きな溜め息を吐く。
二人の反応を見て、杏寿郎はまた別の物を指差す。
「む? だったら、上はこれを着たらいいんじゃないか?」
彼が指差したのは、UVカットのパーカーだった。
確かに、そちらはファスナーを全開にできるが、そういうことじゃない。
「ああ、でも、人前で脱ぐんじゃないぞ」
杏寿郎はにっこり笑って、そう言った。
それじゃあ結局暑いじゃん、と思いつつも、深月は「うん、そうだね」と適当に返事をする。
冷静になって考えれば、別に水着を買うのに杏寿郎の許可はいらない。
深月のお小遣いで買うのだし、何度も言うが彼に水着姿を見せるわけでもない。
杏寿郎は深月にとって彼氏ではなく、幼馴染みだ。
水着は友達と選ぼう、と決めて、深月は杏寿郎から雑誌を奪い、ぱたんと閉じた。
杏寿郎はきょとんとした顔で、「どうしたんだ?」と彼女に尋ねる。
深月はその顔を一瞬『可愛い』と思ってしまったが、もう彼の意見を聞く気は無い。
そこで笑いが治まった宇髄が、何の気なしに雑誌を裏返す。
裏表紙には、日焼け止めの広告が載っていた。
綺麗なモデルが、大きなつばの帽子とサングラスを放り投げている、という写真だ。
それを見て、杏寿郎は何か思い付いたようで、真剣な顔になる。
深月はまた嫌な予感を覚える。
聞きたくないが、彼の口は既に開いていた。
「帽子とサングラスもしなさい! 知らない男に顔を見せるんじゃないぞ!」
深月はもう何回目かわからない溜め息を吐いた。
ラッシュガードやレギンスも含め、彼の想定する格好だと、深月は『日焼けしたくないけど渋々付き添いに来たお母さん』といった感じになる。露出するのは手足くらいだろう。
「どこのマダムよ! 私は女子高生で、遊びに行くの!」
力の限り叫んだら、周囲の注目を集めてしまって深月は若干後悔した。
*****
結局、杏寿郎には黙って、深月は最初の候補だったフリルのビキニを買った。
絶対、杏寿郎には見せてあげない、と心に決めて。
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