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宇髄が雑誌をパラパラと捲り始めたのを見て、深月はほっと息を吐いた。
これ以上、杏寿郎との関係を追及されれば、根負けして『杏寿郎が好きだ』と言ってしまいそうだった。
いや、実際に杏寿郎に好意を寄せているのだろう。
深月もここ最近、そう自覚しつつあった。
ただ、未だにその感情が現実の自分のものなのか、それとも夢の中の自分のものなのかの区別はついておらず、答えを出すにはもう少し時間が欲しいのだ。
深月の顔色が落ち着いた頃、宇髄は雑誌を彼女の方に傾けつつ、とあるモデルを指差した。
「これだな」
「あ、それ! やっぱり可愛いよね!」
深月の表情がパッと明るくなる。
宇髄が指したのは、深月が選ぼうと思っていた水着だった。
トップスに大きなフリルが付いているタイプのビキニで、ショートパンツもセットになっているものだ。
(男の子から見ても可愛いなら、杏寿郎も可愛いと思ってくれるかな)
ふと、そんなことを考えて、深月の口角は自然と上がる。
そこで、宇髄がニカッと笑って、今度は深月の胸元を指差した。
「盛れそうだしな」
どうやら、深月とはやや違った感性で水着を選んだらしい。
深月の顔から笑顔が消える。
「失礼な。人並み程度にはありますけど。それに、友達と行くんだから、胸盛ってもしょうがないでしょ」
宇髄は悪びれもせず、「着痩せするタイプかー。だったら、もう少し布面積が小さくても……」などと言いながら再度雑誌に視線を落とす。
深月は溜め息すら出ないほど呆れ、上を見る。
そのまま流れる雲をぼうっと眺めていたら、不意に質問を投げ掛けられた。
「でも、もし煉獄に見せるんなら、盛れるやつ選ぶだろ?」
「えっ……!?」
深月は動揺し、頬をうっすら赤くする。
自分を好いてくれているとはいえ、杏寿郎は今のところただの幼馴染みだ。彼に水着を見せる予定もない。
しかし、先程、無意識に『杏寿郎が可愛いと思ってくれるかどうか』を基準に水着を選んでいたことに気付き、さらに動揺する。
やはり、彼に可愛いと思われたいのか。
そんなわけない、とは言い切れないが、この気持ちも自分のものかどうか。
いつもの悩みに辿り着いて、でも顔はどんどん熱くなる。
なんとか熱を誤魔化そうと、俯いて頬を両手で押さえながら、言葉を絞り出す。
「いや、杏寿郎は、胸の大きさで人を判断したりしないから……」
「俺がなんだ?」
「きゃあ!」
急に増えた声に、深月は飛び上がりそうなほど驚く。
恐る恐る顔を上げれば、彼女の悲鳴に驚いた様子の杏寿郎が立っていた。
「あ、水着選んでて……」
なんだか恥ずかしいので杏寿郎の話題には触れず、深月は宇髄の手の中の雑誌を指差す。
視界の端で宇髄がにやにや笑っているのが見えて若干腹立たしかったが、それは無視することにした。
杏寿郎は雑誌に視線を落としたかと思うと、眉間に深い皺を寄せた。
「こんなものを着て、誰とどこに行くんだ?」
「え、友達とプール……夏休みに、行こうってなって……ほら、バスで行ける大きいとこ」
彼の表情や言動に、深月は不安を覚える。
今、杏寿郎は、水着のことを『こんなもの』と言った。ただの水着を、『こんなもの』と。
「ちなみに、今の第一候補はこれ」
宇髄が身を乗り出して、杏寿郎に先程の水着を教えるように指差す。
すると、ただでさえ深い杏寿郎の眉間の皺が、さらに深くなる。どうやら、お気に召さなかったようだ。
「こんなに腕や腹を出して、はしたないだろう」
案の定、言外に「別のにしろ」と言われ、深月は慌てて抗議する。
「いや、みんなこれくらい着るよ!」
「駄目だ!」
即答だった。検討の余地無し。
だったら、と深月は宇随から雑誌を奪い取り、別の水着を指差す。
「これは? オフショルだから、腕隠れるよ! さっきのよりフリルも長いし……」
おまけにハイネックだから、鎖骨から胸元も隠れる。
こちらの水着も充分可愛いデザインなので、深月も妥協できる範囲だ。
「露出が多くないか? いろいろと出ている」
「えー……」
深月は呆れたような声を出す。
そんなことを言われても、水着なのだからいろいろ出るのは当たり前だろう、という感情を込めて。
それからも、深月はめげずにいくつか候補を上げたが、杏寿郎に全て却下された。
ハイウエストは胸元が出ているから、モノキニは背中が開いているから、タンキニは腕や脚が出ているから、という理由でそれぞれ駄目出しを食らったのだ。
「じゃあこれは!? ワンピース!」
これならさすがに文句はないだろう、と深月はドヤ顔で雑誌を杏寿郎に見せつける。
この水着は落ち着いた色で、胸元も二の腕もフリルで隠れるし、お腹も背中も出ていない。
丈はミニスカートくらいだが、他の水着に比べればかなり長い方だ。
このまま街を歩けそうなくらい、水着というより洋服に近い。
杏寿郎の回答はというと。
「駄目だ。肩が出ている」
「じゃあ何ならいいのよ!」
深月はうんざりして、雑誌を宇髄の方に放り出す。友人からの借り物だということを一瞬忘れて。
雑誌をキャッチした宇髄は、もはや爆笑している。
何がそんなにおもしろいんだ、と深月は彼を睨み付ける。彼女にとっては、微塵もおもしろくなかった。
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