「やっぱり付き合うなら、お兄ちゃんっぽくて包み込んでくれるような優しさがあって、でもどこかお茶目な行動だってできちゃう人っていいと思うんだよね」
「そんな人いるかなぁ?」
「いないかなぁ。うー、頭ぽんぽんしてもらいたい!めっちゃキュンてする」
「あたしはとにかく大人で落ち着いた人がいい」
「あー年上やっぱいいよね!」
美佐と机をくっつけてお昼ご飯を食べながら、理想の彼氏像を語っていた。彼氏の方が年上がいいというのはお互い同じらしいが、そこにあれこれ条件を加えていくのが私。
彼氏いない歴イコール年齢
の、私たちにとって、付き合うということに関しては少々夢見る乙女なわけで。
「そういえば去年卒業した荒木先輩、かっこよかったよね」
「わかる!なんかもう、大人です、な雰囲気すっごいあったよね!人気もあったし」
「しかも一途っていう。はあ、素敵」
「今学校に年上いないもんね、先生くらい。ま、私たちが高校に上がったらまた年上だらけなんだけど」
この学校にはもう対象いないかもねーと二人して笑う。特別モテるような外見でもないのに言いたい放題なのは許してほしい。夢見る少女なのだから。
「あ、じゃああれは?」
「んー?」
ぱくり
ウィンナーを口にしながら、美佐が指差す方へ顔を向ける。
「ジャッカル」
「真田!突然どうした?」
「ああ、部のことで話があってな。今平気か?」
「おう」
彼女が指差しているのは、間違いじゃないのなら、今ジャッカルのもとにやってきた……。
テニス部レギュラー3年
老け顔担当 “真田弦一郎” だろう。
真剣な表情で部活のことを話している最中悪いのだけれど、やばい、困った。
急いでウィンナーを飲み込み、口元を押さえる。肩が震える中美佐に目配せすれば、彼女も限界が近いのか顔を下に向け、聞こえるか聞こえないかくらいの笑い声を発していた。
「おまえら二人には、」
「ぶっ‥ははははははは!!」
「ちょっ志眞!笑い方ひどっ、くくっ、あははは」
耐えきれなかった。
いきなり教室内に響いた私たちの品のない笑い声にクラスメートはもちろん、何かを言いかけた真田もぎろりとこちらを見た。ひええ怖い!
とりあえず真田のことで笑ったわけではない!ということにしなければ、私たちの身の危険。視線が泳ぐが、必死に脳内で話のネタを作る。
「あ、あれはさ!年上とかそういう問題じゃないよね!なんかいろいろと!」
「ふっ‥くく」
「大人な人ってのはクリア、かも」
「案外お茶目だったらどーする」
「えっいやそれは……ふっ、待って想像したら、あはははっお腹痛いー!」
正直なところ話の内容は変わらなかったが、年上という単語が出てきたことにより、彼の注意は私たちから外れた、と思われる。
そしてあまりにもバカ笑いしているのが気になったのか、何の話をしているのか、と裕斗が聞いてきて。
「えっ、と、最近人気出てきたお笑い芸人」
という苦し紛れの嘘はすぐにバレる。
放課後になり本当のことを話せば、同じように彼もお腹を抱えて爆笑した。
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