私が服のお買い物のお誘いを断ったあと。それなら夕飯の買い出しに行きますと彼が言ったので、宿題をして待っていると答えると、あなたも一緒にと連れ出された。なんだこれ。初めての経験だ。
今になって考えると、あまりにもタイミングが良すぎる。私との会話をコナンくんが伝えたのだろうか。服買ってあげなよって言ったのかな。まるで昴さんが私に意地悪してるみたいに思わせてしまったかな。そんなことないよって言いたい。そしてせっかく昴さんが気を遣ってくれたというのに、私のタイミングが悪かった。完全に服は要らない!強請らない!欲しくない!と決めた瞬間だったのだ。するりと要らないという言葉が出てしまったが、もうすこしマシな言い方があったのではないか。
昴さんの車に乗って、スーパーへ向かった。夕食の買い出しを共にするなんて初めてだ。どういう風の吹きまわしかと思ったが、普通に食材を買い込んでいる。私が前にレシートを見て思った通り、値段は確認していないようだ。
「名前さんは食べられないもの、ありますか?」
「えっ」
食べられないもの?特に浮かばない。虫を食べろと言われたらちょっと待ってせめて佃煮にしてという気持ちにはなるだろうけど、このスーパーで売っている食材で食べられなさそうなものは浮かばない。特別変わったものが売っているわけでもないし。
私が答えを探そうと考えていると、昴さんが三つ葉を手にして訊ねた。
「この野菜は?」
「食べれる」
「そうですか」
セロリの前で止まって、これは?と言う。セロリも食べれる。頷くと、考えるそぶりを見せ、再び歩き出した。後を追う。明太子を手に持ち、私を見る。視線で問われている。むしろ好きだと言う気持ちを込めて、こくりと頷く。明太子は買うみたいだ。カゴに入れられた。
「辛いものも食べられますか?」
「多分食べたことないからわからないけど、大丈夫な気がする」
「それでは今日は辛いものにしましょう」
元の生活の時、辛いものは好きなタイプだった。今も食べられるなら食べたいけど、この子供の体になってからは食べたことがない。食べれるかな。
昴さんはポイポイとカゴに食材を放り込んだ。チゲ鍋でも作るのかな。
「…どうですか?」
「へ?」
「食べられますか?」
「あ、うん、大丈夫、おいしいです」
私の答えに、昴さんはジッとお鍋を見つめた。心なしか不服そうだ。今日の彼は変だ。普段とは違う。私への関心がある。逆に怖い。
「昴さん、今日ちょっと変だよ」
「そうですか?」
「何かあったなら言ってね」
「ええ、あなたも」
会話が成り立たない。もともと居心地が良かったとは言えないけど、こうも微妙な雰囲気だと余計に。普段は沈黙に気まずさを感じないのに、今日は気まずさがある。何か話した方がいいのだろうか。何を?話題が思いつかない。目の前にある、具が無くなったチゲ鍋のことしか考えられない。
「この残ったスープにご飯とチーズ入れてリゾットにするとおいしいよね」
「そうなんですか。僕は試したことはありませんが…それは誰と食べたんですか?」
「えっ 誰って、そりゃ」
しまった。私は名前しかわからないという設定だった。誰と食べたかって、家族とか友達とかだけど。正直に答えられない。誤魔化すことしかできない。
「たしかお店の人が作ってくれたよ」
「それはいつ?」
「むかし」
私は今小学一年生だ。ちょっと適当な答えでも許されると信じたい。むかしっていつだよ。むかしのこと覚えてるのかよ、そのお店には誰と行ったんだよ、どこの店だよ。色々突っ込みどころは多いけど、ニコニコしておけばどうにかなると信じたい。コナンくんだってニコニコしてボクわかんな〜いで乗り切ってる場面が何度もあったはずだ。昴さんに通用するかは定かではないけど。
これ以上問い詰められる前に、逃げるが勝ちだ。食べ終えた食器を台所に運び、宿題やらなきゃと言い残して部屋を出る。普通に気まずくて怖いから、今日はもうお風呂の時間まで部屋を出ないと心に決めた。いや、いつもそうなんだけど。