よく考えれば私が本当に小学一年生の時はお父さんと一緒にお風呂に入っていたような気がする。そういうことだったんだろう。昴さんはお父さんじゃないけど。突然お風呂に現れた昴さんに動揺しすぎて、私は思わずシャワーを彼の顔面に浴びせてしまった。一人で洗えますから!と叫びつつ。もしかすると彼の変装?マスク?に悪影響だったかもしれない。お陰で昴さんはそうですか、と言い残しスルッと退場した。私はお風呂を上がった今でも心臓から変な音がする気がしている。怖。私もお風呂から出て、このまま直接自室に戻ろう、今日はもう昴さんと顔を合わせないでいよう、と思っていた矢先。脱衣所から出た瞬間。廊下で偶然にも?昴さんと遭遇してしまったのである。反射的に、ごめんなさい!と謝罪の言葉が口を衝いて出た。
「顔にシャワー向けちゃってごめんなさい、目とかに入って…ない…?」
「いえ、こちらこそ突然すみませんでした。入ってないので大丈夫です」
「よ、よかった〜〜」
「ドライヤー、リビングに用意しておいたので」
「エッ」
ア〜〜この廊下での遭遇は偶然じゃなかった!ほら行きましょうと背を押され、リビングのソファーの前に立つ。昴さんがドライヤーを片手に持ち、ソファーに座り、脚をポンポンと叩く。え?そこに座れと?
「早く乾かさないと風邪をひきますよ」
「あっはーい」
変な感じ。私は今、体が小さくて、小学生のフリをしてて。血のつながりも何もない、大学院生に変装したFBI捜査官の膝の上で髪を乾かされている。なんだこれ。いや、充分に伝わっている。彼は私に歩み寄っている。どちらかに先に終わりが来るとして、限りある時間だとしても、家族になろうとしてくれてるのかなって、思った。だとしてもね。だとしてもさっきの浴室に登場するという展開は驚きだけども。
まだパーマもカラーも経験していないような、傷みのないサラサラの私の髪を、昴さんの大きな手が撫でていく。始めは擽ぐったいって思ったけど、今はなんだか心地いい。緊張してたけど、解れてきたような。あーだめだこれ、眠くなる。うとうとしかけてるところで、昴さんの声がした。ドライヤーの音で、聞き取りにくい。
「博士の家で歩美ちゃんに会って」
「あ…歩美ちゃん?私と同じクラスの?」
「お父さんに髪の毛を洗ってもらって、ツノにしてもらうのが好きだって」
「あ〜〜」
なるほど。歩美ちゃんの影響だったのか。お父さんと家で過ごす時どんなことしてるのかって、歩美ちゃんにきいたのかな。エッなにそれ、かわいい。頭がふわっとする。気持ちいい。
「私はお風呂は一人で入りたい、けど」
瞼が重い。首がカクンと垂れる。寝ちゃいそう。でも言いたい。これは言わせて。
「髪乾かしてもらうの…好き…」