「先輩って、時々そういうこと言うよね」
【永視点】
修学旅行最終日の午後。
駅前商店街、昼ご飯を食べにラーメン屋"はがくれ"を訪れた。
「んーっ! やばい、うまいよコレ!」
「ここのラーメン、この辺で一番おいしいんだから。ドラマの時、よくロケ弁パスしてここに食べに来たし」
千枝ちゃんやりせちゃんは楽しそうにしているが……。
「って……あれ? 雪子先輩と永先輩、なんか食欲ない?」
「ねえ……昨日って、夜どうしたっけ……? 私、ほとんど記憶なくて……。永ちゃんもそうだって言うし……」
雪子ちゃんに同意し、黙って頷いた。
「ああ、私と先輩たち、すぐ寝ちゃったらしくて、なんか、盛り上がったらしいけど」
「そうなんだ……覚えてない……」
「盛り上がったの?」
瀬多くんにそう聞いてみると、
「少し本気を出してしまった」
……よくわからないが……まあいいか。
「……あれ、りせちゃんのサイン。よくバレなかったね」
壁に展示されているいくつかの芸能人のサインの中に、りせちゃんのものを見つけた。
「平気、平気。店員さんも気づいてないでしょ? そんなもんだって。しかも殆どノーメイクだし」
そういうものだろうか。というか、
「メイクしてなかったんだ。りせちゃん、やっぱりかわいいね」
「……永先輩って、時々そういうこと言うよね……お世辞じゃないのがわかるから余計に照れるっていうか……」
「?」
りせちゃんは珍しく顔を赤くしていた。
「つーかバレないの、コイツの方が全然目ぇ引くからでしょ……。まあ、着てきた以上、着て帰らすしか無いけど……」
千枝ちゃんはクマを見て呆れていた。
「中、湯気で蒸れてんだろ……」
確かに、クマの中身は暑そうだ……。
「あれっ!? 私のどんぶりは? もしかして……食べちゃった?」
「の、残してたから……えへ」
「残してない!」
どうやらクマは相当にお腹が減っていたらしく、雪子ちゃんの食べかけ含め11杯もラーメンを貪っていたようだ。さすが猛獣。
「そろそろ、集合の時間ですね」
「あー、もうそんなかぁ……。旅行、メンドくさーって思ってたけど、終わってみれば割と楽しかったかも。ね、駅でお土産買って行こうよ。菜々子ちゃん、楽しみにしてると思うよ?」
「おっし、じゃ行くか。おいクマ、行くぞ。おい、クマきち」
花村くんがクマに呼びかけるものの、クマは一向に動こうとしない。食べ過ぎたようだ。
「このコ、置き去ろう」
「集合に遅れそうなので、僕はこれで」
雪子ちゃんと白鐘くんの二人は先に店を出て行った……。
それを追って千枝ちゃんも出て行く。
「ちょ、マジ無理ですから! 帰りの切符代、もう無いの!」
「さらば、クマ……青春の思い出とともに、ここに置いていこう……」
クマに合掌し、帰りの集合場所へ向かうことにした。
……修学旅行の全日程が、無事に終わった。
最初は気が進まなかったが、意外と良い思い出になったかもしれない。
……彼らのおかげだろうか……。