知り合いの知り合い
ちょっとした用事で訪れた高専の廊下を歩いていると、コツンと後ろから棒のようなもので足を叩かれた。
「あっ、ごめんなさい!」
振り向くと同時に、慌てた様子の青年が頭を下げる姿が目に入る。
青年の右手には白い杖が握られており、先ほどぶつかったのはこれかと納得した。頭を上げた青年はカラーレンズの入ったメガネをかけており、レンズの下からはアクアブルーの両目が覗く。どこぞの目隠しを思い出す色だった。
「すみません、えと、呪術師の方ですか?」
「……何故そう思ったんです?」
白杖からも察してはいたが、おそらく盲目なのだろうこの青年とは1度も目線が合わない。細身で善良そうな雰囲気を持つ青年に、初対面で呪術師かどうか聞かれるのは予想外だった。
「僕の目、視力はないんですけど、一応六眼で。突然変異か何からしいけど……呪力だけは見えるんです」
青年は困ったように笑ったが、突然もたらされた情報に頭が痛くなった。
「そうでしたか。おっしゃる通り、私は呪術師です。あなたは?」
「京都の高専を卒業してはいるんですが、呪術師ではないです。――って、あ、名前! 僕は水谷千尋と申します」
「私は七海建人です。水谷さんはこれからどちらへ?」
「音楽室です」
「音楽室?」
そんなものが高専にあった記憶はない。
「はい。保健室の隣にあるんですけど……」
「……そうですか。では、行きましょう」
「えっ、七海さん、何か用事があったんじゃないですか?」
「いえ、もう済んでいますから。保健室の場所ならわかりますし、1人では危ないでしょう。腕くらい貸しますよ」
「あ、ありがとうございます! 助かりました、実はまだこの校舎に慣れてなくて……」
右腕を彼の方に寄せると、細い腕が遠慮がちに組まれた。
*****
保健室の隣にあるという音楽室は、本当に存在した。古びた校舎の中でそこだけ妙に真新しく、先回りでもしたかのように扉の前には目隠しをした長身の男――五条さんが立っていた。
「千尋、七海、何してんの」
目隠しをはずしたかと思えばその両目は瞳孔が開いている上に真顔だ。普通に引いた。
「五条さん、知り合いですか?」
「うん。僕の」
話が通じない。面倒そうだ、あまり関わらないでおこう。
「ハァ……私はたまたま会った彼を案内をしただけです」
「あ、はい、僕が杖をぶつけてしまって……。七海さん、案内ありがとうございました」
「いえ、当然のことをしただけですから」
「はいそこまで」
五条さんは水谷さんとの間に割り込んできて、組んだままだった腕をはずさせた。
即刻この場を立ち去りたい。