交流会(欠席)
「もしもし真希、ごめん風邪ひいたから交流会休むね」
『は? ちょ、おい待っ――』
返事を待たずに電話を切った。
「私は別の用事で出る。ま、あとは寝とけば問題ないよ」
「ありがとうございます……」
ベッドの横にいた硝子さんは医務室から出て行った。
何故医務室にいるのかといえば、一昨日からの任務で負ったちょっとしたケガを治してもらおうと思っていただけなのに、ここに向かう途中で急に具合が悪くなってしまったからだった。昨日のにわか雨に当たったのが原因の風邪。うっかりしていた。
京都校との交流会は明日に迫っていた。けどぶっちゃけ人間相手のこのイベントでは術式上私は特に役に立たないし、呪霊狩り係として淡々と祓うだけだったからいてもいなくても変わらない。というか、悟先生が虎杖くんを交流会で復学させることは、以前ちょっとしたお願いをされたときに聞いていた。サプライズするから黙っててって言われてるけど。
つまり役割的にも人数的にも私が休んでも問題ないのだ。
そうと決まればあとは寝るだけ。自室に戻ろうと医務室のドアを開けると、目の前に真希がいた。
「せめて説明しろよ」
「あはは、ですよね……」
女子寮までの廊下を真希と並んで歩きながら、経緯を説明した。いやまあ、説明するほどのことでもないんだけど。
「早く治せよ」
なんだかんだで優しい真希は、長話をするでもなくそれだけ言って戻って行った。
*****
そんなわけで交流会当日。少しは回復したけどまだだるさが残っている。
今朝早くに悟先生に起こされて、"来られそうなら見学だけでも来なよ"と言われたけど、無理っぽい。虎杖くんの生還サプライズはちょっと見たかったなあ。なんて考えながら、また眠っていた。
――それから目を覚ますともう午後だった。すでに交流会は始まっている。
スマホを確認すると、数時間前に真希たちからメッセージが届いていた。"早く治せ"とか"祝勝会には来いよ"とか、しゃけの絵文字とか。野薔薇からは"伏黒が寂しがって泣いてるわよ"と来ていた。そんなわけないでしょと思いつつちょっと笑ってしまった。
ただいちばん気になるのは悟先生からの鬼電だ。かけなおした方がいいのかな、なんて考えているとちょうどまたかかってきた。
「もしもし、深山です」
『あ、起きた? そっちは異変ない?』
「異変、ですか? 特にはないと思――げほげほっ、っ!?」
『真実?』
「すみません、ちょっとむせちゃって。変わったことは何もないですよ」
『そう。じゃあ、指示があるまで部屋から出ないようにね。何かあったら学長に連絡して』
悟先生が説明を省くのはいつものことだけど、今回は返事をする間もなく電話を切られた。
おそらく夏油さんたちの作戦がすでに始まっているんだろう。とはいえ、会いに来るとは聞いてない。
「やっほー、来ちゃった」
悟先生との電話中に、真人が普通にドアを開けて入ってきたから思わず咳込んだ。
「外にはいなかったから探したよ。って、具合悪い?」
「あ、うん、風邪……」
「人間は弱くて大変だね」
そう言って真人は私の額に手を置いた。
「真人、手めちゃくちゃ冷たい」
「ははっ、今更じゃない?」
「うん……でも冷たくて気持ちいい」
「いつになく素直だね。あーあ、長居できないのが残念だよ」
「もう帰っちゃうの?」
「寂しいなら、手だけでも置いてくけど。分身はさすがに無理だし、手は今度返してくれればいいから」
「それはちょっと。……それ」
真人は見慣れない荷物を持っていた。視線を移すと真人は慣れたようにウインクをして応える。またそんなのどこで覚えたんだろう。
「ああ、任務完了だよ。ま、楽しみにしてて」
そのまま出ていくかと思ったら、ベッドに乗り上げて、私の上に馬乗りになる真人。そして顔を近づけてくる。
それから荷物を持っていない方の手で片手を絡めとられて、顔の横に押さえつけられた。
「んっ、真人、風邪うつっちゃ……わないんだった」
「ウケる、全然頭働いてないじゃん。俺は風邪引かないからキスし放題だよ」
「うん、ん……」
「はっ、そろそろ我慢できなくなるからもうやめとくよ」
「真人、我慢とかするんだ」
「バレていいならこのまま連れ帰るけど」
「ごめん、嘘」
「嘘が下手だね。いつもあんなにうまいのに。……じゃあ、またね」
ドアから入ってきた真人は窓から出て行った。
何か用があるのかと思ったら、ただ会いに来ただけっぽくて少し驚く。
真人が私に興味を持っているのが嬉しくて――って、熱のせいで妙な思考が働いてしまったのかも。