食べてみた
「うえっ、くっそまず!!」
「何してんだお前」
座学と座学の間にある休憩時間。私は授業中に思いついてからずっと試したかったことを実行してみたら、事故った。
「呪霊食べたらまずかった」
「いや、何でそうなるの」
「お、おかか……」
真希もパンダも棘もドン引きしている。ひどくない? まだ理由も言ってないよ。
「私のストックしてる呪霊、いつもポケットに入れてるんだけどさ。それだと持ち運べる量も少ないし、どうにかなんないかなーと思って」
本当は真人が体内で保管しているのを見て真似たわけだけど、もちろんそれは言えない。まあでも、元々これはどうにかしたかった問題だった。
「だからって食べねえだろ」
「悠仁に影響されたか?」
「さすがの私も指は食べないよ〜」
「呪霊食ってる時点で同じだろ」
「そうかな? まあ、慣れるしかないか」
「あ、食べるのは確定なのね」
再チャレンジ。今度は一気にいかずちょっとずつだ。
「うっ、げほっ、味ヤバいな……真希、しょうゆと塩どっちがいいと思う?」
「知らねえよ、気持ち悪ぃこと言うな」
「何やってんのー? 僕も混ぜて!」
私たちが、いや主に私が騒いでいると、次の授業を担当している悟先生が教室に入ってきた。悟先生の授業はあってないようなものだけど。
「悟、真実がついに人間やめちまったよ」
「えっ、じゃあパンダと仲間だね」
そう返したら"それは違う"と首を振られた。なんで棘まで一緒になって首振ってんの。
「で、真実は何やらかしたの? 怒らないから教えてよ」
「何でやらかした前提なんですか。呪霊食べてみただけですよ」
それからさっきみんなに言ったのと同じ理由を説明した。
「なるほどね。――ちなみに、呪霊ってどんな味?」
とても口に出せるような味じゃないぞこれ。と言いたいところだが先生はどうしても気になるらしい。1個試すか勧めてみたら断られたけど。
「……ゲロ拭いた雑巾って感じですね」
「…………」
正直な感想を言うと、同級生たちは1歩遠ざかっていき、悟先生は自分で聞いといて"うわぁ……"って感じの顔をしていた。目隠しでよくわかんないけど。
「まあいいや、あとで虎杖くんに味付けのコツとか聞いてみよ」
「いや、悠仁は丸呑みしてるよ」
「えっ、化け物じゃないですか」
「ブーメランすぎる」
パンダはやれやれと肩を落とした。
「ま、とにかく無理はしないこと。それと何かあれば僕に言うこと。いい?」
「はあ」
何で急にシリアスめなトーンになったのかわからなくて、思いのほか気の抜けた返事が出てしまった。
「いいね?」
「は、はい。わかりました」
念を押された。特に断る理由もないし、何かあればいつも相談しているつもりなんだけどな。真人のことは除いて。
いつの間にか目隠しをはずしていた先生にじっと見つめられる。なんだなんだ。相変わらずきれいな顔だな。
「惚れた?」
「セクハラ教師は帰れ」
さっきまで私にドン引きしていたはずの真希が長物の呪具を先生との間に突っ込んだ。
「先生。私悟先生の顔はこの世で一番きれいだと思いますけど、ぶっちゃけ好みじゃないです」
「えぇっ!?」
「タレ目の方が好きなんですよね〜」
悟先生は都合の悪いことを顔でごまかそうとしてくることがあるから、もうこの際言ってしまおう。みたいな。
真希たちは爆笑こそしないものの笑いをこらえている。それが逆につらかったのだろうか、先生は目隠しをつけ直した。
「あ、いや、別に好みじゃないだけで先生の顔はすごくきれいだと思いますよ、ほんと、国宝かってくらい」
「真実、ふっ、やめてやれ、そういうフォローが一番"効く"」
笑い交じりにパンダがそう言う。先生はなんとなくスン……としていた。