好奇心vs好奇心
ちょっとした任務で2級呪霊を祓った帰りのことだった。
路地裏に駆けていく三毛の野良猫。もしオスだったらレアだななんて、軽い気持ちでそれを追いかけたのが間違いだったのだ。勝手にフラフラどっか行くなって、真希にはよく怒られる。
「あれ、猫、いない……」
あわよくば触りたかったけど残念だな、でも仕方ないか。猫は諦めて高専に戻ろうと来た道を引き返す。
伊地知さんに連絡しないと、と思って路地裏に背を向けたところで、誰もいなかったはずの背後から肩を掴まれた。
途端に妙な感覚が全身を襲う。呪力だ。それもすごく強い、今の自分じゃ勝てない相手。
「あれ? おっかしいな」
軽薄な声が聞こえたと思ったら、肩を離される。反射的に距離を取って相手を見ると、人間のような見た目をした呪霊がいた。しかもやっぱり間違いなく格上だ。
「君、魂を完璧に呪力で守ってるね。どうやってるの?」
「え、魂……?」
こんなに会話が成り立つ呪霊は見たことも聞いたこともなかった。顔や腕に見えるツギハギだけが、人間ではないことを示している。
絶対戦わない方がいいに決まってるけど、一応両手にはめていた手袋を外しておく。
「質問を変えるよ。君は自分の魂を知覚できてるのかな?」
「……? いや、よくわかんない、ですけど……」
「へえ、無意識なんだ。なるほどね……」
一体何に納得したのかもわからないが、見た感じ相手に戦う気はなさそうだ。逃げたい。
「じゃあ君の術式はどんなの? それと関係してるのかな?」
ずいぶん好奇心旺盛だなこの呪霊。人のこと言えないけど。
でも言われた通り術式の開示をしたところでこっちに勝ち目はないだろうし、そんなホイホイ手の内を明かしたくはない。珍しい術式だって悟先生も言ってたし。先生に言われたくないんだけど。
私が答えないでいると呪霊はどんどん近づいてくる。やっぱり敵意はないみたいだけど、こっわ……1級どころじゃないって。やっぱり特級なのかな? いや終わったなこれ。
「うーん、もう一回試させてくれる?」
ついに目の前まできた呪霊にまた肩を掴まれる。別に強く掴まれたりはしてないけど、正直特級怖すぎて動けない。
「うぅ、無理です離してくださぁい……!」
めちゃくちゃ情けない声が出てしまって恥ずかしいけどそれどころじゃない。呪力がなんかこう、入ってくるっていうか……探られてる感が……ぞわぞわする……。
「やっぱりダメだな。さっきのがまぐれってわけでもないのか」
私が返事しないせいでさっきから独り言言ってるみたいになってるけど、あんまり気にしてないらしい。
隙を見て私も術式使ってみようかな、ワンチャンいけるかもしれないし、とかやぶれかぶれなことを考えていたら、不意に体が宙に浮いた。
「ちょっと来てもらうよ」
担がれてる。私呪霊に担がれてる。
「あの、ちなみに、どこへ……?」
「どこって言われてもなぁ、アジトってやつ?」
「アジトって仲間の呪霊がわんさかいるとか――」
「いや、俺だけだよ。あ、そういえば君名前は? 俺は真人」
「深山真実ですけど……」
私は順応性が高い方だと思ってたけど、さすがに今回はまずくないか。口が勝手に答えちゃって理解が追い付いてないよ。
「真実は呪術師だよね。何級?」
「2級です」
「ふーん」
いや聞いといてあんま興味ないんかい。っていうか呪霊って雑談できるんだ。