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弓道着に着替え終えて道場に戻ると、すぐに説明会は始まった。
まずは初心者向けに弓具を紹介し、次に経験者による射技の披露を行うという。解説はすべて森岡先生だ。
如月くん、小野木くんと並んでそれを眺める。今日のところは経験者もほぼ見学のみになるらしい。
「男子は鳴宮湊くん、女子は竹早静華くん。ちょっと引いてみてくれんかのう」
森岡先生、突然のムチャブリだった。
「「えっ」」
突然名指しされて私と湊はハモった。事前に教えてもらった段取りでは、射技を披露するのは部長である静弥だったはず。
他の部員も顔を見合わせている。
「無理です、それにおれ、部員でもなんでもないしーー」
着替えすらしていない制服姿の湊は反論したが、森岡先生には効かなかった。
「君の射型はグンバツじゃと聞いた。静華くんも、弓道参段の実力者じゃ。ぜひ一度、見せてくれんかのう?」
何故それを。私の段位に関してはおそらく静弥情報だろうけど。
「お前、段持ちだったのか!?」
小野木くんが素直にびっくりしているのはなんとなく新鮮だ。
仕方ない、と私が準備を始めていると、小野木くんたちは嫌がる湊の準備を強行していた。かわいそうじゃない?
「森岡先生、私と静弥じゃだめですか? なんで湊を」
「友達と引く弓も楽しいじゃろう? それから、わしのことは気軽に"トミー先生"と呼んでおくれ」
森岡先生、もといトミー先生はニコッと笑いそう答えた。
あっ、だめだこれ。拒否権ないやつだ。
参ったな。なんて眺めているうちに湊の準備が終わり、執弓の姿勢で本座に並んだ。
「湊、がんばろ」
「……うん」
小声で話しかければ答えてくれた。これで無視されたら私ははずす自信がある。
*****
トミー先生は湊の早気を知らなかったらしい。
静弥がぺらぺら話すとは思えないけど、知ってるんだから止めてあげればいいのに。
小野木くんを発端とした湊との口論は女子更衣室にまで響き渡っていた。
彼も真剣に弓道をやっているみたいだから、湊の早気を手抜きだと思ってしまったようだ。
そこを問い詰められた湊は珍しく声を荒げ、弓道場から去って行く。
自分はもう弓引きじゃない、と言って。
湊の口からそんな言葉が出てくるなんて、思ってもみなかった。
湊が早気になってから、私はそれを治すのにずっと協力していた。まだ治ってないけど、あんなに弓道を拒絶したことはこれまで一度もなかったのに。
納得のいかないいまま女子更衣室を出ると、そこはもう。
「……お通夜じゃん」
湊はすでに帰ってしまっていて、残った数人だけが気まずい空気に包まれている。
「あっ、静華おかえり! もー、そんなこと言っちゃだめっしょ。ーーそれよりさ、さっきの静華の射、すごかったよね! かっちゃんもしばらく見惚れてたんだから。もちろんオレも!」
「はっ!? 適当言ってんじゃねぇよ七緒! まぁ、射型は、その、あれだ、悪くなかったつーか……」
「えー? なぁにかっちゃん聞こえない」
「るっせぇ!」
如月くんが場の空気を変えようと話を逸らした。小野木くんも何だかごにょごにょ言っているが、素直に褒めるのが恥ずかしいのか語尾がめちゃくちゃ小さい。
「そうじゃな。静華くんの射は皆のお手本になる、見事なものじゃった」
「……ありがとうございます」
射型を褒められるのは素直に嬉しい。けど、今は湊のことが気になって純粋には喜べなかった。
「さ、遅くなるから帰ろう、静華」
静弥は私の手を引っ張り弓道場から出ようとする。
「待って静弥。ちょっと小野木くんと喋ってくる」
「いいけど、ケンカしないでね」
「しないよ。ていうか、静弥が言うな」
静弥だって、湊に突っかかる小野木くんへの当たりが強いクセに。