1
「静華、お前は今日居残りだ」
「えぇ……」
しれっと帰ろうと思ってたのに。
部活という名の下僕労働を終えた男子たちは不貞腐れて速攻帰ったし、女子も女子でだらだらしないタイプの人たちだから普通に撤収が早い。
「別に説教するわけじゃないんだ、そう身構えるなよ」
そうは言われても。
私も雅貴くんも弓道着から着替え、駐車場に移動した。道場で話すのかと思ってたけど、いつの間にか完全下校時刻となっていた。
車には雅貴くんの弓を積んでいるから、私は後部座席に乗る。
「どこ行くの?」
「俺の家だ。安心しろ、帰りはまた送ってやるから」
「……」
「こたつもあるぞ」
「何でそれで釣れると思ったの」
うちにはこたつがない。湊の家にも意外とない。つまり私はこたつ初心者だ。
……そんなことより、何をどこから説明しようか考えないと。
*****
「こたつ、すごい〜……」
春とはいえ夜はまだ冷える。この地域は標高高めだからなおさらだ。私はこたつで溶けていた。
「だろ?」
ドヤ顔の雅貴くんは机の上にみかんを2つ置いた。そして1つを剥き始める。
少しして、こたつの中に雅貴くんの長い足が入ってきてーー、
「ひゃあっ!? ちょっ、ちょっと待って、足、足っ!」
「!? どうした?」
「だから足だってば! スカートの中に入ってるんだけどわざとなの!?」
「は!? す、すまん! なんか柔らかいから布団だとばかりーー」
「お尻ですけど!? 痛ぁ!」
逃げようとしたら腰がこたつの机に引っかかってこけた。傍から見たらこたつに住んでるかたつむりのような状態で座布団の上に倒れ込む。
「申し訳ない! 決してわざとじゃないんだ、許してくれ!」
雅貴くんがすごい速さで土下座してきた。しかし、
「……ふはっ、ふふ、雅貴くん、手にっ……手にみかんの皮ついてる……っ」
これから稽古でも始めるのかってくらい綺麗な土下座を見せた雅貴くんだったが、その手にはさっきまで剥いていたみかんの皮がついたままだった。
イケメンがみかんの皮持って土下座してる絵面がおもしろすぎて、なんか急激にどうでもよくなってしまった。
「俺は真面目に謝ってるんだが……」
「ご、ごめん……ふふっ、もういいや、気にしてない」
「俺が言うのもなんだが、もう少し気にした方がいいと思うぞ」
「だって、わざとじゃないんでしょ? じゃあもういいよ」
「お前がいいならいいけどさ」
それから私たちはこたつに入り直して、みかんを食べ始めた。