@ 突撃!隣の弓道部

【湊視点】

弓道部に入部してから少し経ち、今日もいつも通り県大会予選に向けて練習をしていた。

しかし、コーチとして指導してくれているマサさんの様子にどこか違和感を感じる。

「マサさん、どうかした? さっきから扉の方を見ているみたいだけど」

「ああ、すまん。……実は、俺の知り合いが風舞の生徒にいるんだが、弓道部ができたと知って入りたいと言っていてな。今日、来るかもしれないんだよ」

「えっ!?」

予想外の話に他の部員たちもマサさんのところに集まった。

「マサさんの知り合いってどんな人!?」

「女の子!?」

「もっと早く言ってよ!」

「弓道経験者の女子なんだが、来るかどうかわからないから、先に言うのもどうかと思ってな」

マサさんがそう言うと同時に、道場の扉をノックする音が聞こえてきた。

「えっ、今の音って」

「噂をすれば、ってやつかもね」

おれも含めて部員たちはみんな扉の方に注目する。

「失礼しまーす」

女子の声とともに開かれた扉。道場に入ってきたのはーーギャルだった。

「こんにちは〜。見学しに来たんですけど、顧問の先生って〜……ってマサぴじゃん!? なんで!?」

「おお、来たか愛生。俺はここのコーチだ」

「マジ!? 聞いてないんだけど。えっ、てかマサぴいるなら入部するわ!」

「本当か! 良かったなお前ら、新入部員だぞ」

突然現れたその女子はマサさんとかなり仲が良さそうだった。そして勝手に入部の話が進められている。というか"マサぴ"って何だ……。

「いや、ちょっと待ってよマサさん。トミー先生の許可とか……」

「もちろん正式な入部は森岡先生に入部届を受理されてからになるが、まあ大丈夫だろう。こいつは、なんというかこんな感じだが、実力は保証する」

「あ、うち2年1組の藤原愛生で〜す。よろしく!」

「上級生!?」

「あっれ、七緒っちじゃん! 弓道部だったんだ、超意外なんだけど」

「それ、めちゃくちゃブーメランっしょ、愛生ちゃん先輩?」

「なんだ、七緒も知り合いだったのか?」

「あー、まあ、そうっすね」

「なに照れてんの、うちのことナンパしてデートまでしたくせに」

藤原先輩は面白がっているような様子で七緒に話しかける。というか、七緒は先輩にも声をかけていたのか。

七緒は珍しく押され気味だった。

「お前、本当に経験者なのかよ?」

「かっちゃん、この人一応先輩だから。敬語、敬語」

「一応って何。普通に先輩なんだけど! てか、マサぴの保証つきなんだし、疑う余地ある?」

今回に関しては海斗の気持ちも正直わからなくはなかった。なんというか、弓道部には滅多にいないタイプの人だしな……。

「すみません、滝川コーチと藤原先輩はどういう知り合いなんですか?」

妹尾がそう聞くと、再びマサさんに注目が集まる。

「ああ、愛生は昔からこの地区の弓友会に入っていてな。で、その会が夜多の森うちで練習しているから、そこで知り合ったんだよ」

「そ。まあどうせ疑われると思って、ちゃんと認許状を持ってきてんだなこれが」

藤原先輩はカバンから筒状に巻かれた紙を取り出して広げる。それを見ると、確かに弓道弐段を取得していることがわかった。

「嘘だろ……」

小野木は何故かショックを受けていた。

「てか君、うちのことチャラいとか思ってんだろうけど、君もたいがいサッカー部顔だかんね?」

「それは否定できないよねえ」

「んだと七緒!」

「まあまあ、入部うんぬんは森岡先生に確認するとして。今日は見学でいいだろ、愛生?」

「おっけー、そのつもりで来てたし。一応弽とジャージは持ってきてるけど」

「なら更衣室がそこにあるから、着替えてきてくれ」

「うぃ〜」

藤原先輩が更衣室に入ると、マサさんへの質問攻めが始まった。

HOME