@ 入部?
【静弥視点】
入学式で新入生代表の挨拶をしている間、壇上から見える生徒の中に見覚えのある人物を見つけた。
いや、見つけたというよりは、一際目立つその容姿に自然と目が引きつけられた。
他の人より色素の薄い髪や肌が特徴的なその人は、挨拶をしている僕をじっと見つめている。相変わらずの無表情だ。本当に僕を見ているのかもわからないし、ただぼーっとしているだけにも見える。
しかし生憎僕や湊とは別のクラスのようだし、湊は彼女ーー二階堂愛生の存在に気づいてはいないだろう。
まだ弓道部のないこの風舞高校で、彼女とこの先関わるかはわからないけれど、一応動向を注意しておくことにしよう。
*****
翌日。色々なガイダンスを終えて、新入生は各自の入りたい部活の活動場所へ向かうことになった。
僕は昨日のうちに誘われていた弓道部の活動に向かう。
弓道場があるだけで、活動はされていなかった弓道部。その再興を任されていたトミー先生の存在は予想外だったけど、僕にとっては好都合だ。
遼平との再会もあり、トミー先生の話によれば部員も何人か集まりそうだとのことで。あとは環境を整えて、湊を引き戻すだけだった。
初日に集まった弓道経験者の部員の中に、二階堂さんの姿はなかった。彼女は僕たちと特別親交が深かったわけではないけれど、何回か話したことくらいはある。もしかして、湊も顔見知りがいた方が戻りやすいだろうか。
そんなことを考えつつ、数日部活を続けていた。
*****
初心者部員も増えたところで、トミー先生と本格的な初心者講座を開く計画を立てた。
といっても内容は簡単なもので、弓具の説明や経験者による射技の披露と、そんなところだ。
講座を始めたところで、遼平が湊を連れて道場に入ってきた。グッジョブ遼平。
湊は納得していないような表情だけど、多分、遼平の頼みを断れなかったんだろう。それは仕方のないことだ。
遼平と湊が初心者たちと一緒に座ったところで、もう1人、道場に入ってくる生徒がいた。
二階堂さんだ。
僕はまだ彼女に話しかけに行ったりはしていないし、誰かが誘ったという話も聞かない。とはいえ彼女は経験者で実力者でもあるから、弓道部の存在を最近知って見学に来たのかも。まあ、なんにせよ経験者の部員が増えるのは好都合か。
トミー先生が説明を終えると、次は射技の披露だ。ここは部長である僕が担当することになっている。
「では、そこの鳴宮湊くん。それから二階堂愛生さん。ひとつ、引いてみてくれんかのう?」
が、トミー先生は湊と二階堂さんを指名した。
僕は驚いたけど、同時に湊が弓を引けることに喜んだ。弓を引けば、戻ってきてくれるかもしれない。
しかし、トミー先生はこれまで一度も弓道部に姿を見せなかった二階堂さんを何故指名したんだろう。呼ばれた彼女も動揺している。
「お前、弓何キロ使ってる?」
「15……じゃなくて、おれはやるなんて一言もーー」
経験者の1人である小野木は、嫌がる湊に構わず準備を進めていた。僕もそれに便乗して、制服姿のままの湊に体操着を渡す。
二階堂さんの方も、女子部員たちが準備を進めていた。
「あの、何で、私……」
「トミー先生から聞いたよ、経験者なんだよね?」
「えっ、私、言ってない……」
二階堂さんの言葉は相変わらずのスローペースだった。慌てているようだけど、顔を見るとやっぱり無表情。というか、トミー先生は何故彼女のことを知っているんだろう。
不思議に思いつつも、2人の準備が終わると本座に並ばせた。みんなに見やすいよう、中に湊、四的に二階堂さんの順だ。
トミー先生が射法八節を初心者向けに解説しつつ、2人は引き始める。1人ずつ射を見せたいとのことで、二階堂さんは胴造りまでを行った。
……湊の早気は治っていなかった。
会の短さに見ていた経験者たちは驚くが、後ろで引いている二階堂さんに動揺は見えない。彼女も桐先中出身だし、湊の早気を知っていても不思議ではないか。
「皆に見られて緊張してしまったかのう。ーーさて、次の射じゃが、こちらは少し珍しく感じるかもしれん」
トミー先生がそう紹介すると、二階堂さんは弓構えの動作に移った。
彼女は僕たちとは違う流派、斜面打起こしの射手だ。
湊と同じくトミー先生の解説付きで引く二階堂さん。この部の経験者もみんな正面打起こしだからか、余計に注目されている。
そんな視線を感じているのかいないのか、彼女は淡々と一手を的中させて射位から下がった。