@ 入部?-2
【愛生視点】
桐先の内部進学を辞退して、私は県立高校に進学した。理由は色々ある。本当はお兄ちゃんと同じ高校に行きたかった。
県立風舞高校には弓道部がない。それでも別によかった。中学ではずっと弓道部に入っていたけど、あの部は私には合わなかった。だから桐先をやめたし、今後はあまり関わりたくない。
調べてみたらこの辺りにも地域の弓道場があるとわかったから、引きたくなったらそこに行けばいい。学校の部活は必ずどこかの部に入る必要があったけど、とりあえず楽そうなところに籍だけ置いておけばいいだろう。そういうところなら、行かなくたって多分気づかれないだろうし。
そう、計画を立てていたのに。
やっぱり気になって、弓道部の見学に行ってしまったのが間違いだったのかもしれない。
「ねえねえ二階堂さん! 弓道部入るんだよね? 俺もなんだ。一緒に行こうよ!」
「え……」
同じクラスの大きい男子――山之内くんが話しかけてきた。
「二階堂さん? 急がないと部活始まっちゃうよ」
「あの……私、入部しないよ」
「ええっ!? あんなに綺麗な射なのに!? 何で!?」
「! 声、大きい」
「ご、ごめん!」
山之内くんは私の机の横にしゃがんで目線を合わせてきた。幼児になった気分だ。
「なに?」
「っ、い、いや、その……」
「?」
声は小さくなったけど、山之内くんが立ち去る気配はない。私は帰る支度が終わったから、帰りたい。今日はこの近くにある弓道場を見に行ってみる予定だから。
「弓道部、ほんとに入らないの?」
「うん。流派、違うし」
「流派……って、ああ、あの弓を斜めにするやつ!」
「斜面打起こし」
「そう、それ! かっこいいよね!」
「うん。……じゃあ」
山之内くんにそう返事をして、鞄を持って立ち上がる。
「ちょっと待ってって!」
「……今日、予定あるから」
「えっ、そうなの? なら勧誘はまた今度にするよ。引き留めちゃってごめんね。またね、二階堂さん!」
山之内くんは走り去った。謎だ。
*****
【静弥視点】
「ごめん、遅れた!」
「まだ始まってないから、大丈夫だよ」
遼平が道場に駆け込んできた。
「で、今日はどうだったの?」
如月が遼平にそう聞くと、遼平は肩を落とす。その様子を見るに今日も振られたみたいだ。
「湊も二階堂さんもだめだった。でも、二階堂さん、今日は用事があるんだって」
「やる気のない奴らを誘っても無駄だろ」
「えー。でもかっちゃん、二階堂さんって、すっごいかわいいっしょ?」
「知らねえよ!」
「おっと、否定しないということは……」
小野木と如月は相変わらずコントをしていた。仲の良いことで。
「なあ静弥。流派が違ったら、一緒に弓を引けないの?」
「え? そんなことはないよ。団体戦の5人立ちで1人だけ違う引き方、となるとまた別だけど……」
「そっかぁ。さっき二階堂さんに、"流派が違うから"って断られたんだよ」
「それ、多分口実だよ。中学のときは正面も斜面も関係なく、一緒に練習していたし。試合では正面に統一していたけどね」
「えっ、竹早って二階堂さんと中学一緒だったの!?」
遼平との話に突然入ってきた如月。
「そうだよ。と言っても、そんなに話したことはないんだけど」
「ふうん。なーんか、良い手がないもんかねえ」
「チッ。いいから、練習始めんぞ」
如月も勧誘モードに入りかけたところで、小野木がしびれを切らした。結局いつものパターンだ。