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翌日。予想通り如月くんが部活説明会に誘ってきたので、小野木くんも交えて3人で弓道場に向かった。
「……お前らと歩いてると視線がうるせえ」
歩き出して早々に小野木くんは溜息を吐いた。
「そりゃあね。竹早さんといえば、風舞のマドンナって言われてるじゃん?」
「え、入学したばっかなのに?」
「もちろん! まあ俺が言い始めたんだけど」
「お前かよ」
「じゃあ私も如月くんノーパン説流しとく」
「ちょっ、それはやめて!?」
「竹早、やるなお前」
「かっちゃんも褒めてないで止めてよ!」
如月くんはイジり慣れているがイジられ慣れてはいないようだった。
*****
弓道部の見学には思ったより多くの生徒が参加していた。
見慣れない弓矢や巻藁などを見て各々雑談をしている。勝手に触ったりはしていないようで少し安心した。
小野木くんはイライラしているが。
「……なんか、みんな見学で満足して入部しなさそうだよね」
「おおう、竹早さんバッサリ切るね」
如月くんとは話しているうちにすっかり仲良くなった、と私は思っている。
他にもすでに部員がいるようで、少し離れたところに女子が3人おり経験者は集まるように呼ばれた。
それから、こっちに気づいて近づいて来た静弥。
「あ、静弥〜」
小声で呼びながら手を振ると苦笑された。
「静華が来てるの、最初から気づいてたよ。ーー僕は竹早静弥。よろしく」
静弥は如月くんと小野木くんに挨拶をした。
「よろしく! 俺は如月七緒。で、こっちの顔が怖いのが小野木海斗。呼び方、"七緒"と"かっちゃん"でいいから!」
「よくねぇよ。竹早って……お前ら兄弟なのか?」
「うん。双子」
「へ〜、男女の双子って珍しいよね。でもそっくり」
「よく言われるよ」
やれやれみたいな反応の静弥。なんで。
女子部員に更衣室を案内してもらっていると、”失礼しまーす!”と元気な長身の男子が入ってきた。
目が合ってしまった。と同時に手を引っ張られて入ってきた湊の存在に気づく。
「えっ……も、もしかして、愛生!? 俺のこと覚えてる!? 俺、山之内遼平!」
目を輝かせてそう言った男子、もとい遼平。もちろん覚えている。昔、静弥や湊と一緒になって遊んだ仲だ。懐かしさに思わず笑みがこぼれた。
「覚えてるよ。ふふ、久しぶり。すっごい背伸びたね」
「っ、う、うん……久しぶり……」
遼平は急に大人しくなり、湊のところに戻っていった。湊とも目が合い手を振っていると、横から如月くんに肘で小突かれた。
「罪な女の子だよね〜、愛生ってば」
「え? 違うけど」
「いや、違くはないっしょ……」
「いいから早く着替えんぞ」
小野木くんに急かされて更衣室へ向かった。
*****
「男子は鳴宮湊くん、女子は竹早愛生くん。ちょっと引いてみてくれんかのう」
森岡先生、突然のムチャブリだった。
「「えっ」」
突然名指しされて私と湊はハモった。事前に見せてもらった段取りでは静弥と妹尾さんだったはず。
他の部員も顔を見合わせている。
「無理です、それに俺、部員でもなんでもないしーー」
湊は反論したが、森岡先生には効かなかった。
「君の射形はグンバツじゃと聞いた。愛生くんも、中学時代になんと参段を取得する腕前じゃ。ぜひ一度、見せてくれんか?」
何故それを。十中八九、静弥だろうけど。
「お前、有段者なのか!?」
「あ、うん」
小野木くんが素直にびっくりしているのはなんとなく新鮮だ。
仕方ない、と私が弓の準備を始めていると、小野木くんたちは湊の準備を強行していた。
「先生、私と静弥じゃだめんですか? なんで湊を」
「友達と引く弓も楽しいじゃろう?」
あっ、だめだこれ。拒否権ないやつだ。
かわいそうに。なんて眺めているうちに湊の準備が終わり、執弓の姿勢で横に並んだ。
「湊、がんばろ」
「……うん」
小声で話しかければ答えてくれた。これで無視されたら私ははずす自信がある。
*****
森岡先生は湊の早気を知らなかったらしい。
静弥がぺらぺら話すとは思えないけど、知ってるんだから止めてあげればいいのに。
なんとなく納得のいかないいまま更衣室を出ると、そこはもう。
「お通夜じゃん」
「あっ、愛生おかえり! もー、そんなこと言っちゃだめっしょ。ーーそんなことよりさ、さっきの静華の射、すごかったよね! かっちゃんもしばらく見惚れてたんだから」
「はっ!? 適当言ってんじゃねぇよ七緒! まぁ、射形は、その、悪くなかったつーか……」
「えー? なぁにかっちゃん聞こえない」
「るっせぇ!」