@ 荒垣・樋口と1年目-10

始業式が終わり、生徒たちがまばらに下校し始めた頃。

上級生のクラス表が貼られた掲示板の前に、1人の新入生が立っていた。

「……やっと見つけた」

そう呟いた少年は、探していた人物の名前に手を伸ばす。

触れたところで何も起きはしないが、ずっと会いたかった相手の名前に、つい体が動いていた。

まだ本人には会えていないし、連絡も取っていない。それは計画があるからだった。

その少年の名は二階堂永亮。彼が先ほど触れた名は舞田愛生――二階堂の尊敬する射手であり、恋人でもあった。

もとより辻峰に入学する予定はなかったが、それは二階堂にとって都合の良いイレギュラーだった。

斜面打起こしで、ある程度融通の利く弓道部。そんな環境が作れればと考えていた頃に、教えてもらった愛生の進学先。

辻峰高校の弓道部には活動実績がなかった。学校のHPを見ても、他の部とは違い情報がほとんど掲載されていない。おそらく積極的な活動を行っていない部なのだと推察できた。それなら自分がコントロールすることも可能だろうし、何より愛生がいる。

ここしかない、と確信した。

*****

それから二階堂は、準備を整えた。

弓道部の活動実態を調べ、同学年で使えそうな経験者を探した。顧問がどんな人物かを軽く探り、今いる部員たちの関係性を知った。

ちなみに、顧問が部のことを一切把握していないことに多少の驚きはあったが、それはそれで好都合だった。

準備を終えた二階堂は、入部届を提出するべく、上級生の教室に向かう。

久々に顔を合わせる愛生が、果たしてどんな顔をするのか。楽しみで仕方がなかった。

「舞田先輩、これ、受け取ってくれますよね?」

辻峰高校弓道部、2年目の春が始まろうとしていた。

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