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4月12日(火) 回想
【総司視点】
第一印象は、こんな完璧なヤツが存在するのか、というものだった。
「日向朝陽です。こちらこそよろしく」
里中さんと天城さんの二人と親しいらしい、隣のクラスのやたらと背の高いイケメン。
やや遠慮がちに自己紹介をした日向は、図体に似合わぬ穏やかそうな笑みを浮かべていた。
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5月?日(?) 回想
帰り際、廊下に出たところで一条たちに声をかけられ雑談の輪に混じった。
その日はたまたま一条が用事があるらしく、転校初日以来あまり話していない日向と二人で帰ることになった。
日向は聞き上手で、俺のやや未熟な伝達力でもちゃんと話を聞いて喋ってくれた。
だがその時わかったのは、今の俺ではまだ日向と仲を深めることは出来ないということだった。
それから俺は必死に自分磨きに励んだ。どうしても彼と仲良くなりたいと思っていたからだ。
きっとこれも築くべき絆のひとつなのだと直感した。
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7月?日(?)
あれから3ヵ月ほどが経ち、自分で言うのもなんだが、俺もなかなか見どころのある人間に近づいたはずだ。
そう思って、廊下で見かけた日向に思い切って喋りかけてみた。
「日向、一緒に帰らないか?」
「瀬多君? いいけど……どうしたの改まって」
「いや、別に……なんとなく」
「そう? じゃあ、帰ろうか。あ、どっか寄っていく?」
「いいのか?」
「もちろん。どこがいい?」
「俺はどこでも。日向の好きなとこでいいよ」
後日、このやりとりを見ていたらしい陽介に"お前、恋する乙女みたいだったぞ"と言われてしまった。
*****
着いたのはジュネスのフードコートだった。
とりあえずジュースだけ買って、適当な席に着く。
「ジュネス、よく来るのか?」
「たまに。俺、ここでバイトしてるから。食品売り場の試食担当」
「ああ、そういえば陽介が日向はマダムキラーだって言ってたな……」
「はは、そう言われるとちょっと恥ずかしいけど」
否定はしないかな、と悪戯っぽく言った日向。
「小悪魔だな」
「瀬多くんもいい線いけると思うけどなあ」
そう言いながら、日向は口に含んだストローの先端を噛んでいた。
なんとなくそれを見ていたら、日向は視線に気がついたらしく、ごめん、と謝った。
「……ストロー噛んじゃうの、癖なんだ。治そうとはしてるんだけど」
「いや、俺は気にしないけど……ストレスでも溜まってるのか?」
「ん、そうかもね。……って、あ、別に大したことじゃないから、気にしないで?」
日向は少し恥ずかしそうにしながら頭を掻いた。
「俺も、いきなり変なこと聞いて悪かった」
「ううん……瀬多くん話しやすいから、つい口が滑ったっていうか……」
「そうか? 俺でよければ何でも言ってくれ」
「はは、じゃあ何かあったらよろしく」
「ああ。こちらこそ」
そう言った瞬間、頭の中に声が響いた。どうやらコミュニティが発生したようだ。
対応するアルカナは、意外なことに"悪魔"。
いかにも好青年といった印象の日向とはとても結びつかないが……もしかして小悪魔という意味だろうか?
日向との間に、ほのかな絆の芽生えを感じる……。