鳴柱様
※オリキャラモブ隊士:
「あ、義勇。偶然だね」
日中の空いた時間、義勇が日用品の買い足しに街中を歩いていると、明野と鉢合わせた。
明野のほうから声をかけられて嬉しく思ったが、しかし同時に眉を顰めた。
明野が見知らぬ男と一緒にいたからだ。
「誰だ」
「?」
義勇のその問いに、明野は自身を指さし首を傾げる。
が、すぐに気づく。義勇が、おそらく後ろにいる男のことを快く思っていないことに。
男の服装を見れば鬼殺隊士であることはわかる。だが自分が現れるまで彼が明野に見せていた表情は、一隊士から柱に向けるものではないように義勇には見えていた。
「み、水柱様!? 俺、佐島健次郎と申します! 鳴柱様の継子になりたくて、稽古をつけてもらっていたんです!」
「聞いていない」
「ええっ……!?」
義勇としては"そんな話が上がっていたなんて、聞いていないぞ、明野"という意図での発言だったが、佐島は"お前には聞いていないから黙っていろ"という意味だと解釈し、理不尽を感じて困惑してしまった。
「雷の呼吸を使う人はほとんどいないから、様子を見てたの。今は休憩。あ、お団子あげる、義勇の分」
一方で、明野は言葉の意図をおおむね理解していたため、とりあえず説明する。
ついでに茶屋でお土産にと購入していた団子を義勇に手渡す。義勇もそれはありがたく受け取った。
佐島は自分たちより少し年下くらいだろうか。そのおどおどした態度から、義勇には、佐島に継子に迎えるほどの実力があるようには思えなかった。
「それで、どうするつもりだ」
継子となれば、日頃から一緒にいる時間が増えるだろう。場合によっては胡蝶のように自身の屋敷に迎えるかもしれない。
柱同士で同居することは、戦力配分の問題で不可能だ。
自分が傍にいないとき、見知らぬ男に明野を任せられるほど、義勇は楽観的ではなかった。
「継子は、善逸にしようと思うの」
ーー善逸。……黄色い頭の騒がしい奴だ。
明野の弟弟子だと聞いていた。それから確か、奴は炭治郎の同期だったか……と義勇は思い出す。
「そんな……俺じゃだめですか……」
「継子じゃなくても、稽古に来ていいよ」
「ほ、本当ですか! 嬉しいです!」
「うん。死なないように、強くなってね」
明野はにこりと笑い、感激する佐島の頭をぽんと撫でた。佐島のほうが上背があるため、つま先立ちで背伸びをしている。
義勇はその光景を見て、なんとも堪えがたい衝動を抱いた。そんな男にするくらいなら、自分にしてほしいとさえ思った。それが甘露寺の言う"キュンキュン"であるとは、まだ自覚できていない。
「馴れ馴れしい」
義勇はたまらず明野の手を掴み、撫でるのをやめさせた。
「あ、ごめん」
年下とはいえ佐島もとうに元服を迎えた男。子供扱いしては悪かったと明野は素直に反省し、おとなしく手を離す。
このときばかりは、佐島のほうが義勇の言葉の意図を正しく理解していた。
佐島から一瞬鋭い視線を向けられた気がしたが、義勇は怯まない。よく"何を考えているかわからない"と言われる無表情で佐島を見つめる。
「くっ……明野様! 俺、また明日稽古に行きますから!」
佐島は最後にせめてもの抵抗として明野の名前を呼び、返事も聞かずに去って行った。背中に、殺意にも似た視線を浴びながら。
佐島はこの後三日三晩、原因不明の背中の痛みに魘された。
そしてその数日後、"鳴柱の継子になるには、まず水柱を倒さなければならない"という噂が、隊士たちの間に広まったという。