世間は狭いよ
【甘露寺視点】
素敵な殿方を探しに鬼殺隊に入隊して間もない頃。
鍛錬の合間に最近見つけた甘味処に入ると、そこは満員だった。
どうしよう、これじゃあ座れないわ。残念だけど、また日を改めようかしら……。
私が肩を落としていると、
「すみません、よかったら、ここどうぞ」
「えっ!? 良いんですか!? ありがとうございます!!」
誰かにそう声をかけられて、つい勢いのまま勧められた席に座ってしまった。
私に声をかけてくれたのは、近くの席にいた女性。
年は私とあまり変わらないように見えたけど、なんとその女性は子供をお膝に乗せていた。
キャー! かわいい男の子だわ! おいくつなのかしらっ?
でも、いきなり聞いちゃ失礼よね……。
「ああ、子供がいるけど、この子すごく静かなんで」
「いえ、そんな!」
私が子供に夢中になっていたからか、申し訳なさそうな顔をさせてしまった。
でも、もう少しこの方とお話がしてみたいわ!
「とってもかわいいお子さんですね! おいくつなんですか?」
「この子? 2歳だよ。……あ、私は20歳」
「えぇっ!」
私と同じ年の頃には、もうこの子を授かっていたなんて。
きっと良い殿方と出会えたのね! 素敵だわ、憧れちゃうわ……!
「それより、注文はいいの?」
「あっ、そうでした!」
幸せでお腹をいっぱいにするところだったけれど、ちゃんと食べないとよね!
とりあえず桜餅を20個ほど注文すると、女性はすごく驚いた顔を見せた。
「そんなに食べきれるの?」
「は、はい……!」
「へぇ、すごいね」
「でも、女の子らしくないですよね。私、たくさん食べるし力も強いから、お見合いも破談になってしまって……」
この方には関係のない話なのに、つい、思い出して喋ってしまった。
だけど、私の話を聞いた女性は呆れたように笑って見せる。
なんだかすごく大人っぽくて、キュンキュンしちゃったわ……。
「そんなの、相手に見る目がなかったんだよ」
……その発想はなかったわ!
「この子がもうひと回りくらい大きかったら、お嫁さんにほしいくらい」
「えぇっ!?」
女性がそう言うと、男の子は顔を隠すように女性の胸に抱きついてしまった。
恥ずかしかったのかしら? もじもじしててかわいい……!
「ごめんね、ちょっと人見知り激しくて」
「いえっ、とってもかわいいですよ! あっ、そういえば、お名前聞いてもいいですか? 私は甘露寺蜜璃といいます!」
「この子は
冨岡さんは何故か少しためらいがちに答えた。もしかして、あまり聞かれたくなかったのかしら。
「ご、ごめんなさい! いきなり聞いてしまって」
「えっ。ああ、いや、いいよ、嫌だったんじゃない」
じゃあどうして? と私が聞く前に、冨岡さんが口を開く。少しお顔が赤くなっていてかわいらしい。
「ごめん、職場じゃずっと旧姓を使ってたから、なんか慣れなくて」
えっと、それはつまり、旦那さんの苗字を名乗ることに照れていたということ?
「キャー! 明野さんとってもかわいいわ! キュンキュンしちゃうわぁ!」
「うわっ、びっくりした」
「あっ! ごめんなさい!!」
お店の中で大きな声を出してしまった。
周りのお客さんたちも一瞬静まり返ってしまった。
だけど一緒にいる明野さんを見て、私が子供を見てはしゃいでいたのだと思われたのか、すぐに各々元の会話に戻っていく。よ、よかったわ……!
「あの、お詫びにこれ、貰ってください!」
「いや、大丈夫だよ。そんなに食べきれないし、甘露寺さんお腹空いてるでしょ?」
私が桜餅の載ったお皿を勧めると、やんわりと戻された。
「じゃあ、お子さんと1個ずつ……!」
「ありがとう。でもそんなに気にしなくていいからね」
悠義くんも私に向かって小さく頭を下げて、桜餅を受け取ってくれた。もぐもぐと食べる姿が愛らしい。お口のまわりにあんこがついてしまっているわ……! と思っていたら明野さんがしっかり拭ってあげていた。
子供って本当にかわいい! お母さんって本当に素敵! 旦那さんはとっても優しい方に違いないわ!
……なんて、癒されながら私も桜餅を頬張っていると、背後から突然声をかけられた。
「ここにいたのか」
びっくりして振り向くと、長身の男性が明野さんを見下ろしている。
「ああ、義勇くん」
義勇くん、と明野さんに呼ばれた男性。え? ということは、この方が明野さんの旦那さんなのかしら!?
って、そうじゃなくて! 義勇さん――いや、冨岡さんと呼ぶべきかしら――は片身替わりの羽織が目を引くけれど、その下には鬼殺隊の隊服を着ていた。腰には日輪刀を挿している。それによく見たら隊服の釦が金色で、それってつまり柱の方ということで、待って待って頭が追い付かないわ!?
「妻と息子が世話になった」
私が混乱しているうちに冨岡さんは懐からお財布を出して、明らかに多すぎる金額を差し出した。なんで!?
「え!? も、貰えませんよ!? むしろ勝手に癒されてたのは私の方ですし!」
「…………」
「はぁ……。ごめん甘露寺さん、貰ってあげてくれる?」
仕方ないなぁと言った風に溜息を吐いた明野さんにそう言われてしまえば、私はもう断れなかった。
「すみません、お話していただけなのに……ご、ごちそうさまです! あっ、よければ桜餅をどうぞ!」
冨岡さんは少しびっくりしていたようだけど、桜餅は受け取ってくれた。そして小さく頭を下げる。息子さんにそっくりだわ、かわいいわ……!
*****
――そんなことがあった約半年後、私も柱となる。
初めて参加する柱合会議の場にこの2人の姿があったことに驚くのは、そう遠くない未来のお話だった。