幕は開くのか

【渚視点】

近く行われる学園祭の演劇に出演する生徒を募集するため、素羽と共にビラを配った。

だが、まともに話を聞いてくれる人はほとんどいない……。

それでもめげずに配っていると、近くを通りかかった女子が、なんとビラを1枚受け取ってくれた。

「ありがとうございます」

「学園祭、演劇やるんだね」

「はい。有志企画で――」

足を止めてくれた女子に、経緯を軽く説明した。

「へえ、星輝くんが出るんだ。……そっか」

少しだけ表情を和らげると、彼女はビラを丁寧に鞄へしまう。

「がんばってね」

「あっ……」

にこりと微笑んで、彼女は去ってしまった。

眼鏡をかけた落ち着いた雰囲気の人だった。けど、姿勢が綺麗で、不思議と目を引く人でもあった。

「渚、見てたよ〜。惜しかったね! 気を取り直して次行こ、次!」

「うん」

彼女が舞台に上がったら、目立ちそうだったのにな。

なんて思いつつ、素羽の励ましを受け、ビラ配りに戻った。

*****

結局、誰も人を集めることができないまま、軌雅高校との初顔合わせの日を迎えてしまった。

己刮を訪れたのは、演劇部の部長と副部長、そして舞台俳優の池波星輝、漫画家の『ANRI』こと平野亜蘭。

軌雅には月見里やまなし先生と明石がかなり強引に話を持ち掛けていたらしく、演劇部部長はそもそも己刮に演劇部がないことに腹を立てていた。そりゃそうだろう。

理子は誠心誠意謝罪をしていたが、なかなか彼の苛立ちは収まらず……。

「そういえば、そっちにも『現役女子高生モデル』がいただろ? その子出しとけば、うちに頼らなくたっていいんじゃないの?」

「あっ! あたし聞いたことある。確か3年生のー……なんて名前だったっけ?」

「……もしかして、忍田真理奈さんかしら?」

「理子先輩、知ってるんですか?」

「ええ、同じクラスだから。あまり話したことはないけれど」

「――待ってくれ、彼女はこの件には関係ないだろ」

その忍田真理奈というモデルには心当たりがなかったが、どうやら彼女と同じく3年生の理子と池波先輩は知っているらしい。

池波先輩は何故か少し不快そうに眉根を寄せつつ、その話を止めた。

「なんだよ池波、まさか知り合いか? さすが俳優サマだな」

「……己刮の出演者は有志なんだろ? この場にいないなら出る気はないってことだ。無関係の奴を誘う理由はない。――俺としても、やる気のない人間と舞台に立ちたいとは思わないしね」

「す、すみません……」

俺たちの方を見て、池波先輩はそう意見した。

理子は重ねて謝罪したが、部長の怒りはどうやらこちらには向いていないようだ。

「はっ、さーすが池波星輝サマ。プロ意識が高くていらっしゃる。池波サマは高校の学園祭なんてバカらしくてやってられないよなぁ?」

「おい、なんだよその言い方……」

「俺たちだってな、仕事の暇つぶしで部活に顔出してるようなヤツと一緒に『全演』目指したいなんて思わねえんだよ!」

「待ってくれ。俺は部活だって真剣にやってるつもりで……」

「はっ、どーだか! モデルの知り合いなんて作って、楽しんでるみたいだしなぁ?」

なんだか嫌味っぽい部長の言う『全演』とはなんなんだろうかと素羽と一緒になって考えていると、理子が補足をしてくれた。演劇部の全国大会らしい。

「へー、演劇部にもそういうのあるんですね!」

「いや、マジで素人なんだな、あんたら。……ま、己刮の都合はどうでもいいや。そっちとやれねえってのは、俺も池波に同意。じゃこの話はなかったっつーことで。あーあ、とんだ無駄足だったわ」

部長と副部長は席を立ち、部屋を出て行こうと歩き出す。

しかし、

「ま……待って!」

それを引き留めたのは、これまで黙っていたANRI――平野亜蘭さんだった。

*****

翌日。

平野さんの"インスピレーション"なる熱意により、一悶着はあったものの、俺たち5人と池波先輩で演劇をやることになった。

練習場所となる体育館に向かうと、すでに俺と駿以外は揃っていた。

「外、すごかったすよ。池波サン見にきた女子が集まってて」

「そうみたいだな、ありがたいことに」

「は〜、さらっとしてんなー。そーゆーとこもイケメンって感じすんわ」

「でもまあ……最近ついてくれたファンの人たちは、バズってる動画の俺しか知らないからな。本当は、舞台を観に来てくれると嬉しいんだけど」

池波先輩が主に出演しているのは舞台で、最近雑誌社の人に取り上げられた練習風景の動画がSNSでバズったことで今の人気があるらしい。

本当は本業の方で注目されたかったようで、先輩は複雑そうな面持ちだった。

……と、そんな話を聞いていると、平野さんが遠慮がちにいくつかの冊子を取り出してきた。

「あの……舞台用の脚本、作ってきました」

なんと、昨日の今日で書き下ろしてきたらしい。脚本を一晩で完成させてしまうとは、すごい熱量だ。

とはいえ、やはり出演者が5人ではさすがに足りないようだった。

照明や音楽などのスタッフは役者とは別に必要になる、と池波先輩は悩ましげな表情を見せてもイケメンだ。……って、そうじゃなくて。

とりあえず人数集めは後日の課題として、まずは今いるメンバーでやっていくことになった。

HOME