噂の先輩
「よし、そろそろ暗くなってきたし、今日はここまでにしておこうか」
「はぁ〜、つっかれたぁ……でも新鮮なことばっかりで、楽しかったー!」
主人公役の素羽はセリフや登場シーンも多く、なかなか大変そうだった。だが、なんだかんだ楽しめているみたいだ。
「そりゃ何よりだ。演技ってのはまず、自分が楽しむことが一番だからな。――さて、明日も同じ時間でいいかい?」
「え……明日も来ていただけるんですか、池波さん」
まさか連日演技指導のために己刮に来てくれるとは思わず、理子が驚いて聞き返す。
だが、池波先輩は笑って頷いてくれた。
指導を引き受けたからには手を抜かない、とのことだった。性格までイケメンだ。
それから爽やかな挨拶と共に一足先に帰って行く池波先輩。
俺たちも軽く片付けをして、帰ることになった。
「平野さんもありがとう。お仕事も忙しいのに、長い時間付き合ってもらっちゃって」
「いえ。漫画の方は、締め切りも結構余裕あるんです。なのでこれからも、なるべく皆さんとご一緒させていただきます。
「え、でも大丈夫なのかしら……平野さんがいらっしゃるのは心強いけれど……」
「はい、皆さんと一緒にいると、漫画のアイデアや着想もいただけますし……。それと、私は1年生で皆さんより年下ですから『さん』付けもいりません」
「本当……? じゃあさじゃあさ、亜蘭って呼んでいい?」
「え、いきなり亜蘭……」
素羽はそうとわかれば急に距離を縮めていた。さすがのコミュ力だ。
「ウチの素羽がゴメン……」
「え、嘘!? あたしもしかして……なんかミスった!?」
「いえ……少し急だったので驚きましたが、皆さんが良ければ亜蘭で大丈夫です」
それから、平野さん――もとい亜蘭も帰りの方向が同じだということで、雑談をしつつ校門へ向かった。
*****
「そういえば、顔合わせのときに名前の出ていたモデルの方について、少し調べたんですが……」
校門へ向かう途中、亜蘭はふと思い出したようにその話題を出した。
「ああ、えっと、忍田……なんとかさんだっけ?」
「忍田真理奈さんね。己刮の3年生で、私と同じクラスの子よ」
「その忍田さんなんですが、なんだか少し前から『炎上』しているみたいです」
「えっ、炎上!? なんで?」
素羽は亜蘭のスマホを覗き込んだ。なにやらネットの記事が書かれているらしい。
「えーと、『カメラが捉えた決定的瞬間! 現役女子高生モデル・忍田真理奈、番組ディレクターと深夜の密会』……なにこれ?」
「ゴシップ雑誌の記事のようです」
「なんか、ひでえこと書いてあんなぁ……本当かよ?」
「…………」
「理子?」
何か考え込んでいるような理子の様子に、自然と目が行った。
「理子先輩、この人とクラスメイトなんですよね? どんな人なんですか?」
「そうね……。彼女は、あまり目立たないタイプだと思う」
「え、モデルなのに、ですか?」
「ええ。正直、彼女がモデルをやっていたことも少し前までは知らなかったわ。それに、本当におとなしいというか……いつも1人で読書をしている印象ね」
「へぇ〜、想像つかないなぁ。もっと華やかー! 美人ー! みたいな、キラキラした感じかと思ってた」
「あ、でも、仕事中はそういう感じみたいです」
亜蘭は再び素羽にスマホ画面を見せる。どうやらモデルとしての忍田先輩の写真が載っているようだ。
「うわ、ほんとだ! 超きれいな人じゃん!? さっきのゴシップ記事は顔とかあんまりわかんなかったけど……」
駿と理子もその写真を見て感心していた。特に理子は、クラスでの印象との差に愕然としている。
俺もその写真を見せてもらったが、確かにみんなが驚くのもわかるものだった。
きれいな笑顔でこちらに笑いかける忍田真理奈。
まさにきらびやかなモデルという感じだが、しかし、それより気になることがあった。
「……あ、この人」
「なになに、渚、もしかして見たことあった!?」
「うん。学園祭のビラ配りしてたとき、受け取ってくれた人だ」
「え? …………あー! あの! うわー、ちゃんと見とけばよかった〜……」
そうだ、あの妙に印象に残った女子生徒……あの人が忍田真理奈さんだったのか。
舞台に立ったら目立ちそうだ、なんて思っていたけど、すでに舞台に立って目立っている人だったとは。