「簡単な話さ」

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メメントスから出て、無事戻ってきた明智の自宅。

途中で買ったコンビニのおにぎりを開け、明日のことを聞くことにした。

「さっきの話だけど、俺明日もあそこ行かなきゃいけないの?」

「ああ。そろそろ怪盗団も動き出すんじゃないかと思ってね。知ってるか? "怪盗お願いチャンネル"」

「まあ、聞いたことくらいは。え、あれって怪盗団が運営してたの? ていうか、何で急に怪盗団が出てくるわけ?」

「いや、運営はおそらく別人だろうね……って、ああ、そうか。怪盗団の話はまだしてなかったか。――彼らも、僕達と同じくペルソナ使いなんだ」

明智曰く、怪盗団はペルソナの力を使ってターゲットの心――歪んだ欲望を奪い取り、認知を書き換えているという。それが今世間を騒がせている鴨志田や斑目に起きた"改心"らしい。

話を聞きながら、昨日見学したバラエティ番組の収録で、明智はその"心の操作"は間違っていると言っていたのをふと思い出した。

どの口が言ってるんだ、なんて、俺ももう人のことは言えなくなったわけだけど。

「ともかく、怪盗団はそのサイト運営者から情報を得て、依頼されたターゲットを改心させている。最近はある程度依頼が集まってからメメントスに行っているみたいだし、明日あたりがちょうどいい頃合いだ」

「よく知ってるね……。それで、仲間になれって言ってたのは?」

「簡単な話さ。怪盗団を利用してやるための布石だよ。君はちょうど同級生だし、都合がいいんじゃないか?」

明智は昨日ファミレスで復讐の計画を話していたときのような、意地の悪そうな顔をしていた。

なんか、試されてるな、これ。快く引き受けるか見てるんだろうか。

「同級生って……怪盗団が?」

「ああ。秀尽学園2年の来栖暁、坂本竜司、高巻杏、それから洸星高校2年の喜多川祐介。怪盗団は彼らだよ」

「来栖って、転校生の……それに坂本と高巻って、確か、鴨志田に目付けられてた奴らだ」

キタガワユウスケという名前に心当たりは無かったが、他の3人は秀尽の中でもそれなりに目立つ奴ばかりだった。

「鴨志田事件をきっかけに結成されたみたいだからね。喜多川は斑目の門下生だった。――そういうことだから、君には怪盗団の動向を把握してもらいたいんだ。いわば、スパイだね」

……荷が重い。俺なんて、今までぼけーっと生きてきただけのただの高校生だぞ。

「わかった」

しかし俺は即答していた。

さっきのメメントスでのこともそうだけど、なんとなく明智の期待に応えきれてない気がするからだ。

変に意気込んだりはしてないけど、これ以上がっかりされるのも腹立つし、俺も何か役に立たないといつ始末されるかわかったもんじゃないし。

「明日の放課後だよね。"メメントスに迷い込んで、シャドウに追い詰められてペルソナに覚醒した"ってことでいい?」

とっさに作った設定だけど、後半は本当のことだ。あまり話を作りすぎても後で矛盾が出るかもしれないし、これくらいがちょうどいいだろう。

俺が勝手に話を進めると、明智はきょとんとした表情をしていたが、やがて満足げに微笑した。

「ああ、そのへんは任せるよ。猫被りは慣れてるだろ?」

「まあね。明智ほどじゃないけど」

売り言葉に買い言葉みたいなものだった。明智には気に入られておかないととは思うものの、つい言い返してしまう。

……まあ、ともかく、明日からが本番というわけか。

怪盗団よりも先にメメントスに入っておき、偶然を装って接触する。仲間に入れてもらうとなると、やはり彼らに助けてもらうような状況であったほうがいいんだろうか。とはいえ、俺のペルソナは弱点が多いから、場合によってはほんとに助けてもらわないと困るけど……。

明智の話を聞く限り、怪盗団は鴨志田や斑目みたいなセクハラ教師や盗作画家――つまり悪人を改心させる義賊といったところだ。多分弱者を助けたいという部分があるんだろう。

立派な志だ。今まで自分のためにしか生きてこなかった俺には、他人を助けたいなんて気持ちはわからないが、彼らに聞けば理解できるものなんだろうか。

……だめだな、こんな半端じゃ騙してるのが途中でバレる。俺は明智に協力する……まあ、これも他人のための行動と言えるかもしれないけど、何も無償で協力するわじゃない。現にこうして早速家に入り浸ろうとしてるわけだし。

「本当に大丈夫なんだろうな……?」

俺が黙って考え込んでいたからか、明智は訝しげな表情をこちらに向けてきた。

……自分でやれって言っといて疑うなよ……。

ともあれ、こうして俺も本格的に"仕事"を始めることとなった。

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