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武見内科医院で出会った、優しげな薬剤師。
武見の新薬開発に協力しているらしい。

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【暁視点】

いつも通り、薬の調達と治験のために武見内科医院を訪れると、受付にいたのは白衣を着た見知らぬ男だった。

黒髪で少し中性的な顔立ちの、男に言うのは変かもしれないが綺麗な人だ――というのが第一印象で。

「こんにちは」

人の好さそうな笑顔で挨拶され、一瞬戸惑ってしまったが、鞄の中のモルガナに声をかけられハッとして挨拶を返した。

「初診ですか?」

「あ、いや……」

武見先生との取引は他言無用のため、彼に話すのははばかられた。おそらくここの職員ではあるんだろうけど。

「ああ、モルモット君、来てたんだ」

俺が言いごもっていると、奥から武見先生が出てきて声をかけてくれた。

「この子は通していいよ。……ほら、前に言った彼」

武見先生は様子を見ていた白衣の男にそう説明し、診察室に入るよう促した。


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治験が終わり診察室から出ると、当然ながら受付にはあの白衣の男がいた。

「今日はもうお帰りですか?」

「あ、はい。ええと、あなたは……?」

武見先生の口ぶりからして、俺の治験のことも知っているみたいだし、いい加減その正体が気になっていたところだ。

「僕はここで薬剤師をしている御影です」

「薬剤師?」

「ええ。武見先生の新薬開発に協力しているんです。もちろん、普通の調剤もやってはいますけどね」

「なるほど……」

「治験や薬でわからないことがあれば、僕に聞いてくれても大丈夫ですよ。ここ、僕と武見先生しかいませんから、外に情報が洩れる心配もないですし」

こっちに来てからというもの、初対面で親切にされた記憶がなかったからか、御影さんの言葉は何だか妙にむずがゆく感じた。

「ああ、そうだ。来栖くん、確かルブランに住んでるんですよね?」

「? はい」

「ルブランの隣に居酒屋があるのはご存知ですか? 高校生にはあまり馴染みがないかもしれませんが」

引っ越してきてから近所はだいたい回ってみたし、彼の言う隣の居酒屋は夜によく賑わっていたのを覚えている。

「あそこ、僕の実家なんですよ」

「えっ」

「隣人同士、鉢合わせることもあるでしょうし、今後ともよろしくお願いしますね」

「あ……はい、こちらこそ――」

よろしく、と言い終わる前に武見先生が診察室から出てきて、突然御影さんの耳を引っ張った。何事だ。

「また患者をつまみ食いする気?」

「痛いですよ……」

呆れた様子の武見先生と、痛そうに耳をさする御影さん。それにしても"つまみ食い"とはどういう意味なんだろうか。

「つまみ食いって?」

「御影くん、若い男子にちょっかいかけるのがシュミだから。騙されないように」

武見先生に聞いてみれば、彼女は深いため息を吐いた。

御影さんは真面目そうな見かけによらず遊んでいるのだろうか。しかし、ひとつ引っかかることがあった。

「女子じゃなくて……?」

そう聞くと、御影さんはきょとんとした表情になったかと思えば、今度は困り顔になってしまった。

「そうですよ。来栖くんが嫌なら、今後は顔を合わせることのないよう工夫しますし、遠慮せず言ってくださいね。僕、どうも言われないとわからないみたいで」

「別に嫌ではないですけど」

気づいたら食い気味にそう答えていた。受付の向こうにいる2人は揃って驚いた表情だ。

「……そっか。じゃあ今後は遠慮なく誘おうかな」

「まあ、モルモット君がいいなら口出ししないけど」

御影さんには笑顔で、武見先生には呆れ顔で、"お大事に"と言われ帰りを見送られた。


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「あのミカゲってヤツ、なんか変わってたな」

ルブランに帰る途中、鞄から身を乗り出したモルガナが俺の肩にもたれながらそんな感想を言っていた。

「でも、良い人そうだった」

「確かに、珍しくオマエに好意的な人間だったな。タケミの関係者でもあるし、薬にも詳しそうだ。怪盗団の活動に役立つかもしれないし、仲良くしとけよ?」

「ああ、うん……」

気の抜けた返事をすると、モルガナは"大丈夫かコイツ"みたいな目線を向けてくる。

御影さんと話してからずっと、なんだか浮かれたような、不思議な気分だった。

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