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自身の嗜好に不安を覚えているようだ。
誤解を解き、連絡先を教えてもらった。
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【暁視点】
先日、武見内科医院で知り合った薬剤師の御影さん。
彼とは実は隣人だと聞いていたが、かれこれ1週間は会っていない。
その間にも何回か治験には訪れていたが、武見先生に聞いたところ、
「彼、"非常勤"だから。気が向いたときとか、私が呼んだときくらいしかいないよ」
とのことだった。やはり見た目ほど真面目ではないようだ。
ちなみに休みの日にどこで何をしているのかは武見先生にもわからないらしい。
放課後、竜司とのトレーニングを終えてルブランに帰る途中、そんなことをぼんやり考えていた。
人通りのあまり多くない細道を抜けて歩いていると、不意にモルガナが「あっ」と声を上げた。
「おい、あれ、ミカゲじゃないか?」
「どこ?」
ちょうどそこは御影さんの実家だという居酒屋の前で、立ち止まってモルガナの方を振り向くと、彼の目としっぽは上を向いていた。
つられて俺も上を向くと、そこには確かに御影さんがいた。
「……あ、来栖くん」
「昼間から酒飲んでるぞ、アイツ……」
モルガナの言う通り、こんにちは、と言いながら軽く手を振る御影さんは、居酒屋の2階の窓枠に腕を置いて缶ビールを飲んでいた。
以前見た時と違い、メガネをかけている。ラフな格好だし、寝ぐせっぽく髪がハネてるし、休日のようだ。
とりあえず挨拶を返したけど、せっかく会えたのにそのまま帰るのもなと思っていたら、御影さんの方から思わぬ誘いがあった。
「そうだ来栖くん、今日の夜、時間ありますか?」
大きめの声だったが、少し声がかすれている。具合でも悪かったんだろうか。
「えっ。……あ、大丈夫です!」
「じゃあ、後でルブランにお邪魔しても? 明日、学校休みですよね」
「待ってます」
そう返すと、御影さんは初対面のときのような優しそうな笑顔を浮かべ、"またあとで"と言って窓を閉めた。