兄には秘密で
【ヒプノシスマイク】山田三郎/女主(二郎の同級生)
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【三郎視点】
半年ほど前から時々うちに遊びに来る亜依さんという年上の女性は、二郎の同級生だった。
二郎と違って彼女は聡明な人なのに、どうして仲が良いのかを聞いてみたら"たまたま席が隣になって、教科書を貸したり宿題を教えたりしていた"という。
彼女は優しい性格で、でもノリの良さもあって、ボードゲームが結構強い。もちろん僕が負けることは少ないけど、お互いの敗因の分析とかを一緒にするのが楽しかった。
だから、二郎には内緒で僕は彼女と連絡先を交換したりもした。別に隠すことでもないけど、文句を言われても嫌だし。二郎のヤツは絶対亜依さんのことが好きだ。
ちなみにいち兄は彼女のことを"二郎の友達"だと思っているから、二郎の恋人になってくれたらな、なんてことを言ったりしていた。
でも僕だって彼女のことが好きで、二郎なんかに渡してやるつもりは毛頭ない。
面倒見の良さそうな亜依さんは、僕のこともすごくかわいがってくれている。嬉しいけど、異性として見られているかは正直微妙なところだ。
「三郎くん?」
「はい? どうしました、亜依さん」
「いや、なんかぼーっとしてたから。ちょっと休憩しよっか」
僕が考え事をしながらも続けていたチェスはまだ途中だったが、一旦休憩になった。
「三郎くんやっぱり強いね」
「そんな、亜依さんも十分強いですよ。僕、亜依さんとゲームするの、すごく楽しいです!」
「ほんと? 私も楽しいよ」
そう言った亜依さんは、頬杖をついてにこりと笑った。
いつもは放課後にうちに来ることが多いけど、今日は休日に誘ったから見慣れた制服ではなく私服姿だ。
制服を着ているときはあまりわからなかったけど、その、なんというか……すごくスタイルが良くて……くそっ、こんな二郎みたいなことを考えるのは癪に障る、けど……。
彼女が肘をついたことで少し前かがみになったところで気付いてしまったんだ。ぴったりとしたシャツで強調されている胸が、机に乗せられていることに。
乗っ……!?
そ、そんなに大きいのか、いや、確かに少しだけ見えている胸元からは谷間と思わしき溝がくっきりと見えているけど――。
と、つい彼女の胸元をちらちらと伺いながら考えていたら、ふいにそこを腕で隠されてしまった。
反射的に彼女の顔に視線を移すと、亜依さんはいたずらっぽく笑っていた。
「ふふ、見たい?」
「……えっ!?」
ついそこに視線を向けてしまっていたことはすでにバレているらしい。軽蔑まではいかなくとも嫌がられるかもと思っていたら、予想外の彼女の言葉に思わず声が裏返ってしまう。
「ずっと見てるんだもん。興味あるのかなって」
「すっ、すみません……!」
「あっ、いいのいいの。私もね、あんまり男の子と親しくなったことなくて……」
そう言いながら、向かい側に座っていた亜依さんは僕の隣に来て座り直した。しかも、めちゃくちゃ近い。
「あ、の、亜依さん……っ」
「なぁに?」
聞いたこともないような甘い声でそう返されたと思ったら、亜依さんの手が僕の太ももに触れた。驚いて思わずびくりと身体が揺れてしまう。
「今日、お家に二郎くんも一郎さんもいないでしょ」
彼女の言う通り、いち兄たちは外出している。確かに2人になれる日を選んで誘いはしたけど、いきなりこんなことになるとまでは予想できなかった。
というかマズい、こんなことされたら……っ!
「三郎くん、"イイこと"と"イケナイこと"、どっちがしたい?」
「!?」
なんだそれ。そんなの、今まで解いてきたどんな難問よりもずっと難しい問いだ。