E 火神大我
【火神視点】
オレがそいつを最初に見たのは、入学式の日だった。
その日はバスケ部に入部届を出した後、適当に校内をぶらついていたら弓道場に辿り着いた。
弓道部なんてアメリカにはもちろんなかったし、日本にいた頃も直接見る機会がなかったから、少し興味が湧いた。まぁ、入部する気は微塵もなかったが。
ともあれ、そこを覗いてみると、見学に来た新入生が十数人と、袴姿で実演している上級生がいた。
その新入生の中に一人、目立つ緑頭のちっこい女が一人。オレの赤髪も割と目立つと言われるが、多分そいつの方が目立っている。
そいつは上級生たちの実演には目もくれず、入部届を出してすぐに弓道場を去って行った。
オレはそいつのことが妙に気になったが、特に追うこともなく弓道場を後にした。
後日。授業が始まる日、教室でそいつを見つけた。同じクラスだったようだ。
長い緑の髪に、黒縁のメガネをかけた、いかにも真面目そうな女だ。
そいつは誰と話すワケでもなく、一人で本を読んでいた。
友達いねーのかよ、なんて思ったが、それほど気にはせず、オレはオレでその辺のヤツらとテキトーに喋っていた。
しばらくして知ったことだが、そいつは緑間という名前らしい。見た目まんまかよ。
降旗たちの話によれば、そいつ――緑間は結構"人気"があるという。オレはそーゆー話はよくわかんねぇけど、確かに顔は整っているとは思う。だがあいつが笑ってるトコなんて見たこともなければ、直接話したこともない相手だ、人気と言われてもいまいちピンと来なかった。いつも一人で本読んでるしな。
美人で人気があって、でもいつも一人で本を読んでいる、ちょっと変わったちっこいの。
それがオレの緑間#name2#に対するイメージだった。
*****
緑間#name2#と最初に喋ったのは放課後の図書室だった。
例のごとくふらりと消えた黒子を探しに、アイツの行きそうな場所を当たっていた途中だ。
本棚の間を片っ端から覗いていたら、背伸びをしている緑間を見つけた。
どうやら高い段の本が取れないらしい。
向こうはオレに気づいてなかったが、オレにとってはなんてことない高さだったから、本を取って渡してやった。見て見ぬフリをするのもなんか後味わりーし。ただそれだけだ。
「ほらよ」
「あ、火神くん。ありがとう」
緑間は少し驚いたような表情で礼を言った。
「……オレのこと知ってたのか」
「同じクラスでしょう? それに、テツヤくんとよく一緒にいるし」
「テツヤって……お前、黒子と仲良いのか!?」
驚いた。緑間と普通に会話してるのも、黒子のヤツが緑間に名前で呼ばれているのもだ。
「中学同じだったから」
「じゃあ、お前も帝光なのか」
うん、と言って頷いた緑間は、確かに笑っていた。
あれだけ笑わないというイメージがあったからか、ものすごく貴重なものを見た気分だ。
「火神くん、図書室に何か用でもあった?」
「あ? いや特に……じゃなかった、アイツ、黒子を探しに来たんだけど、見てねーか?」
「テツヤくんならさっき火神くんとすれ違いで出て行ったけど……もしかして気づかなかった?」
「ハァ!? マジかよ!?」
思わず大声を上げたオレに、緑間がしーっと注意する。
「まぁまぁ、テツヤくんはしょうがないよ。ついさっきだったから、まだ追いつくかもしれないよ」
「ハァ……わかった。ありがとな」
「これ、取ってもらったお礼ということで」
緑間はオレがさっき取ってやった本を大事そうに抱えた。
「……なんだ、お前、もっとつめてーヤツかと思ってたわ」
「ふふ、よく言われる。でも火神くんこそ、もっと怖い人かと思ってた」
「はっ、よく言われるわ」
じゃ、また明日な、と言ってオレは図書室を後にした。
その日の部活の練習は、カントクたちに心配されるくらいすこぶる調子が良かった。