@ 入部-1
【#name2#視点】
神山高校に入学してすぐ、私は古典部に入部した。
理由は単純に、静かな所で1人になれるから。古典部は現在部員0名だと聞いている。
人付き合いは苦手だ。別に嫌いではないけど、私にとっては面倒なことこの上なかった。
私は察しのよいタイプだったのか、大抵の会話では相手が次に何を言うのかが予想できる。一字一句、というわけではないが、内容は相違ない。
すでにわかっていることをわざわざ口に出して、機嫌を伺い合う行為ーー会話というものが億劫だった。
クラスで浮いているわけではない。そもそもまだ入学したばかりだし、私だって話しかけられれば返事くらいはするし、"普通の会話"が出来ないわけじゃない。
……と、くどくどとぼっちの言い訳を述べている間に、教室から離れた古典部部室に辿り着いた。
この遠さだけはよくない。移動は手短かに済めば済むほど良い、というのは私の持論だ。
そういえば、ここに来る途中、用務員さんが1人で何やら天井の設備か何かを点検して回っていたようだけど、用務員ってそんなのも仕事のうちなんだ。知らなかった。
ともあれ中に入ると、やはり誰もいなかった。しかし施錠もしていないとは、それでいんだろうか。
とりあえず机に荷物を置いて、椅子に座った。暇だ。古典部って何をする部なんだろう。いや、何もしなくていいか、どうせ他に部員なんていないのだからーー。
「あら? #name1#さんも、古典部に入部されたんですか?」
私の散らかった思考は、そのよく通る高い声に一掃された。
「……千反田さん」
「はい、千反田えるです。同じクラスですよね、#name1##name2#さん」
「うん」
突然現れた千反田さん。クラスメイトの千反田える。話したのは初めてだけど、整った容姿と、何よりその独特な名前を覚えていた。
「#name1#さんも古典部に入部されたんですね。よろしくお願いします!」
「千反田さんも?」
「はい。部員がいないと聞いていたので、早速クラスメイトの方と一緒になれて良かったです」
千反田さんも? って、我ながらしょうもない質問だ。彼女が古典部に入部したことはすでに明らかだった。
しかし雑談の返事としては正解だったのか、千反田さんに気にした様子はない。彼女のことはまだよく知らないが、きっと性格が良いんだろう。
「古典部って、何をするところなの」
「え? さあ……」
千反田さんは私のような消極的な理由でこの部を選んだわけではないだろう。だから何かやりたいことがあってここに来たはず。
さあ、と答える彼女の顔はやや困っている。どうやら私にそれを明かすつもりはないらしい。なら、入部についても何かしらの個人的な事情があるんだろう。
「そう。一身上の都合ってこと」
会話としておかしな返しか、これじゃあ。
私は何をする部なのかを聞いて、千反田さんはわからないと答えた。今の答え方では、私の質問は"どうして入部したの?"でないとおかしい。
この過程部分を自己完結してしまうから、私は会話が苦手のだ。
「どうしてわかったんですか!?」
「えっ……何が」
「私が古典部に入った理由です」
「わからないけど」
「いいえ。私は、もし#name1#さんにそれを聞かれたら、そう答えていましたから」
「あ、そうなんだ……」
「#name1#さん、どうしてわかったんですか?」
なんだこいつ。
いや、ほぼ初対面の女子にそんなことを言ってはいけない。けど、けどこれは。
大きな瞳を輝かせて、興味津々といった様子で近づいてくる千反田さん。
「……ぁ……ぁの……」
「あら? #name1#さん、少しお顔が赤くーー」
目の前に迫る千反田さんが、私の頬に手を伸ばした。
*****
【奉太郎視点】
地学準備室には、女が2人いた。
1人はまさに清楚と形容できる。背まで伸ばされた黒髪に、女にしては高い背。多分里志よりも高いだろう。しかし楚々とした全体の雰囲気から離れて大きな瞳が、そこだけ活発な印象を残していた。
一方でもう1人の女は、その清楚な女によって頬に手を添えられて、椅子に磔にされていた。いかにも困っていますという表情で、身動きを取れずにいるようだ。
肩より少し長いややくせのある黒髪で、小柄な女だった。小ささで言えば伊原とも張り合えるだろう。大きめのカーディガンを羽織っているせいか、余計にそう見える。しかし奴と違うのは体型だが、初対面の女のそれを無遠慮に形容するほど品性を失くした覚えはない。少し厚めの唇と眠たげな目が、気だるげな印象を与える奴だった。
しかし、異様な雰囲気だ。
仲の良い同性の友達でもなかなかそこまで近づかないだろう、と思えるくらいに、2人は至近距離にいた。おそらく、座っている方は立っている方に一方的に迫られている。
そんな2人の視線が、俺に向けられた。
「こんにちは。あなたって古典部だったんですか、折木さん」
立っている方は案外あっさりと姿勢を正し、座っている方から離れた。
「……誰だ?」
「わかりませんか。千反田です。千反田える、です。こちらは#name1##name2#さんです」
千反田える。いくらなんでもそんな名を忘れるわけはないと思うが。
#name1#と呼ばれた女は、千反田が離れると少し脱力した様子で、なんだこいつと言わんばかりの視線を千反田に向けていた。この2人はそんなに仲が良いわけではないらしい。
「私たち、1年A組なんです」
これでわかったでしょう、とでも言いたげに千反田は沈黙した。どうやら#name1#はクラスメイトらしい。
「#name1#さんも、わかりますよね」
「え、知らな――」
一瞬眉根を寄せた#name1#は、知らないと言いかけて、首を傾げた。それからまた口を開く。
「あー、うん、わかった」
一体何がわかったというのか。