A 王子
【王子視点】
「おはようございます、出水先輩」
「んぇ〜おはよ……だれ?」
下校時刻間際の誰もいない図書室。
入学してすぐに校内で見かけた出水杏子先輩に一目惚れしたぼくは、彼女に話しかける機会を探していた。
「1年の王子一彰です」
「おうじ? 似合う〜」
寝起きでへら〜っと笑う出水先輩は、まさにぼくにとってのファム・ファタールと呼ぶにふさわしい。
「王子くん、わたしに何か用事?」
「先輩と仲良くなりたいと思いまして。ちょうど2人きりになれたし、話しかけようと起きるのを待ってました」
「へ〜? ん〜、いいよ。じゃあ敬語やめよ?」
「いいのかい?」
「うん」
それからぼくたちは2人で帰ることになった。
帰り道を並んで歩くと、初対面のはずなのにそんな気がしない。
「よければ、これから先輩のことを送らせてくれないかい?」
「へ、なんで〜?」
「少しでも一緒にいたいからね」
「ん〜、いいけど。王子くん変わってるね〜」
「ぼくは先輩に一目惚れしたんだ。すぐに恋人になれとは言わないよ、ぼくを好きになってもらうのはこれからの予定だから」
先輩のようなタイプには回りくどく言ってもはぐらかされる可能性がある。
まずはぼくの気持ちをはっきり伝えて、少しでも意識してもらわないとね。
「あ〜……えへへ、そんなにはっきり言われたことないから、照れる〜」
「ふふ。ああそうだ、ぼくのことは名前で呼んでよ、杏子先輩」
「一彰くん? なんか新鮮かも〜」