観音坂先輩
【独歩視点】
会社の後輩である夢野想太郎という男は、俺が初めて持った直属の部下――というと大げさだが、教育係をハゲ課長に押し付けられたのが知り合うきっかけだった。
とはいえ俺なんかが教育係につくまでもなくこいつは最初からそれなりに仕事ができる奴だった。
それでもわからないことがあればすぐに相談してくるし、教えてやれば素直に感謝を表してくれる、裏表もなさそうな嫌味じゃなく感じの良い奴。
俺なりにかわいがっている後輩のつもりだったわけだが、親しくなるにつれ、こいつの"変わった部分"が見え隠れしてくるのを感じていた。
例えば、双子の弟がいて、よく友達にどっちがどっちか見分けさせていたとか。いや、これは双子あるあるなのかもしれんが。俺は双子じゃないからわからない。
その程度ならまあ微笑ましいくらいで済んだ。だが今回のは格が違うだろ。
「あ、そうだ観音坂先輩。そういえば俺、この前初めて男に抱かれたんですけど――」
……それ、職場の先輩との雑談に持ち出す話題なのか……?
ましてや今はたまたま時間がかぶって一緒に昼飯を食っている最中だぞ?
俺はつい持っていた箸ごと卵焼きを落としてしまった。すまん一二三。
「夢野、お前ゲイだったのか?」
「いや、違いますよ〜。なんか違法マイク? っていうのにやられちゃって」
「は? 違法マイクって……」
警察沙汰じゃないか。なんで普通にしてるんだ。
夢野は俺の落とした箸を拾ってウェットティッシュで綺麗に拭いてくれた。
「催淫効果があったみたいなんですよね。それで一緒にいた子に助けてもらったんですけど、マイクのせいで正気じゃなかったんで、色々あって最終的に4Pになっちゃったんですよ。すごくないですか?」
「ちょっと待て情報量が多い」
夢野は腹立つくらい綺麗な顔で柔らかく微笑んでいる。何の表情なんだそれは。感情が読めん。怖。
「4Pって、まさか全員男でか?」
「そうですよ」
「地獄絵図だ……」
「ですよね〜」
「お前はなんでそんな平然としてるんだよ」
「マイクの効果だし仕方ないかなと思うと意外と平気ですね。それに結構"良かった"んですよ」
「やめろ知りたくない」
「そうですか?」
「当たり前だろ。後輩が友達と4Pしてるとかいう情報を俺にどうしろって言うんだよ」
「いや、面白い話題探してたらなんとなく思い出したんで」
「お前の中でそれは"面白い話題"なのか……」
メンタル強すぎるだろ。
「というか、その友達もよく、その……ヤッてくれたな」
「ああ、友達っていうかシブヤ・ディビジョンの3人なんですよ〜。幻太郎経由で知り合ったんで、結構俺にも良くしてくれるんですよね」
「え? ……は?」
幻太郎。
幻太郎ってアレだろ? 弟だろ? 一二三とバトルしてたシブヤの二番手で、俺は想太郎の方と先に知り合いだったから、瓜二つすぎて最初見た時めちゃくちゃ驚いた奴……。
「待て、お前それ、近親相姦じゃないのか?」
「あはは、バレました? いや、俺も幻太郎に抱かれる気はなかったんですけどね。帝統と乱数だけずるいって言うから断れなくて。それに1回抱かれたらもう2人も3人も変わらないかなって」
心の底から恐怖を覚えたんだが。
そんな理由で弟に掘られて大丈夫なのか? 俺なら無理だ。
「ていうか、あのクソジャリにまで……」
なんか腹立つな。
「クソジャリ? あ、そうか。観音坂先輩、テリトリーバトルで帝統と戦ってましたよね」
あの生意気なギャンブラーにまで掘られていたなんて……かわいかった俺の後輩が汚されてしまった気分だ……いや、夢野はどうせ俺のことなんてただの陰気な先輩くらいにしか思ってないんだ。俺が勝手に期待して勝手にがっかりしてるだけ、はあ、俺はなんでこうなんだ……。
「観音坂先輩?」