野良猫が野良猫を拾う

【帝統視点】

今日も野宿だ。

こういう時たまに使ってる公園のベンチに向かうと、そこに誰か座ってるのが見えた。先客か?

と思ったら違った。子供だ。

制服姿のまま、スクールバッグを抱えてベンチで眠っている少年。明らかに怪しい。

「おーい、んなとこで寝るなよ。危ねーぞ?」

もう夜中といってもいい時間帯だ。このまま放置してたら警察に連れてかれるんじゃないか?

そいつの肩を何回か揺すっていると、やっと目を覚ましたのか少し身じろいだ。

「おい、大丈夫かよ?」

「っひ……!」

突然怯えだしたそいつに俺は戸惑った。

「な、なんもしねえって、どうしたんだよ?」

「……ご、ごめんなさい」

泣きそうな震え声で謝りながら、立ち上がってその場から去ろうとするそいつを、咄嗟に引き留めた。

「ガキがうろうろしていい時間じゃねえって、大人しくしてろよ」

とりあえず乱数か幻太郎に相談しようと思ってスマホを取り出す。今日はこれ賭けなくてよかったぜ。

そいつをベンチに座らせて、逃げねえように腕を掴んだ。男のくせにほっそい腕で、よく見たら体格もひょろひょろだ。何歳かは知らないが、異常に小柄だってことは確かだった。身長は乱数と同じくらいか?

2人に連絡を入れて、先に返事が来たのは幻太郎だった。そういや乱数は最近仕事が忙しいっつってたか。

幻太郎から電話がかかってきて、それに出ると呆れた声が聞こえてくる。

「よー、幻太郎。今からお前ん家行っていいか?」

『はぁ……まず、経緯を教えてくれます?』

経緯もなにも、野宿しようとしたら先客に謎のガキがいた。それだけだ。

そう伝えれば、幻太郎はこっちに向かうと言って電話を切った。とりあえず待っとくか。

「……んな怯えんなって。つか、腹減ってねえか? もうすぐダチが来るからよ、食わせてくれるぜ」

「ぇ……ぁ……」

「あ? わり、聞こえなかったわ」

「…………」

声が小さすぎて聞こえないし、聞き返すと黙ってしまう。意味わかんねえ。

「なあ、お前こんなとこで何してたんだよ?」

「……なにも、して……ぼくは何も、してない……っ」

ようやく答えたかと思ったら今度は泣き出した。といっても声も出さずに涙を袖で拭って、ひたすら全部耐えている、そんな泣き方だ。

「あんま擦んなって、あとで痛くなんぞ?」

励まし方なんてよくわかんなかったから、好きなだけ泣かせといた。

早く来てくれ幻太郎、警察が来る前に。


*****


車を公園の横に停めた幻太郎は、こいつを見るなり保護すると言って自分の家に連れ帰った。ちゃっかり俺も着いて行ったが、特に文句も言われなかった。

幻太郎ならすぐ警察に届けると思ってたから少し意外だ。ていうか何企んでんだ?

「何ですか、帝統?」

運転席の幻太郎は、助手席に座る俺を見ずにそう聞いてきた。

「何がだよ?」

俺の疑問なんて見透かしていそうなもんだが、あえて聞いてきてんのか?

「……ただ、興味が湧いた。それだけですよ」

核心に触れないような物言いばかりする幻太郎。嘘なのか本当なのかわかんねーし。

ミラーごしに後部座席のそいつを見ると、さっきと同じくバッグを抱えて眠っていた。

「寝てんじゃねーか」

俺が思わず振り向いて確かめると、幻太郎は愉快そうに笑う。

「ふふ、それは僥倖。小生たち、思いの外彼に信用されているのでは?」

「……泣き疲れただけじゃねえの?」


*****


幻太郎の家に着いても起きなかったそいつを、俺が抱えて運び込んだ。

「し、死んでねえよな? こいつ体重ねえんだけど」

「何言ってるんですか、明らかに生きてるでしょう。まあ、健康そうではありませんけどねぇ」

ソファに寝かせて、そいつからバッグを離させる。

とりあえず身元がわかるもんを探そうと、そいつの持っていたバッグを開けると、中身が予想外なことになっていた。

「うわ、ひっでえ! なんだこれ」

「……いじめですかね、これは」

幻太郎も不快そうに顔を顰めた。

バッグの中には教科書なんかが入っていたが、ひっくり返された弁当やらこぼれたジュースやらでひどい有様だった。他人にやられたのか?

本格的に警察案件じゃねえの、と思っていたら幻太郎は未だに寝てるそいつの服をめくりあげていた。

「何してんだ?」

「いえ、この調子じゃ、暴力なんかも受けているのではと思いましてね。――ああ、やっぱり。これはひどいな」

そいつの腹のあたりには青くなった内出血の痕があった。

「つか、どうすんだよ、そいつ」

「まずは事情を聴きたいところですが……まあ、彼が起きてからでないとどうにもなりませんしね。今日のところはゆっくり寝かせてあげましょう」

「ん、まあ、それがいいかもな。――っつーことで幻太郎、俺も泊めてください!」

「はぁ……」

溜め息を吐きつつ、客間に布団を2組敷き始めた幻太郎。なんだかんだ泊めてくれんだよなー。

俺はそいつを起こさないように布団に運んだ。

制服は脱がせて幻太郎の服に着替えさせたけど、案の定サイズが合ってなかった。まあ仕方ねえか。

「じゃ、彼のことは頼みましたよ、帝統」

「えっ」

「小生は乱数にも連絡を入れておきますので。では、あとは若いお2人で。おやすみなさ〜いでおじゃ〜」

雑にボケた幻太郎は客間から出て行った。

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