ダチと依頼とコスプレと@
「二郎、三郎。お前らに頼みがある」
神妙な面持ちで弟たちを呼んだ一郎は、目の前でそわそわとする2人とそれぞれ目を合わせた。
「次の依頼、俺たち"兄弟3人で"っていう指定なんだが――」
「やるよ兄ちゃん!」
「もちろんやります!」
「おい二郎! 僕が返事したのにかぶせてくるなよ!」
「あぁ? 俺が先に返事しただろ!」
そのままケンカを始めた2人に、一郎はため息を吐きつつゲンコツで静かにさせる。
「そんなことでケンカするな。――で、その依頼ってのは、世話になってる知り合いからの頼みなんだけどな」
一郎は2人に依頼内容を説明した。
「へえ、コスプレイベントか」
「3兄弟のコスプレをする人が足りないから、僕たちに頼んだんですね」
「でも、コスプレってその作品を知らない人がやってもいいの?」
いかにもオタクらしい心配をする二郎に、一郎は満足げに頷いた。
「ああ、それは大丈夫だ。俺たち全員知ってるアニメだからな。ほら、先月三郎にも勧めたアニメがあっただろ?」
「ああ、あの作品ですか! 確かに、それなら僕も好きです」
「よし! 衣装は向こうで用意してくれるって話だから、あと俺らにできることは、作品への理解を深めることだな。つーわけで、今日は円盤上映会だ!」
それ、アニメ見たいだけなんじゃ……と三郎は思ったが、ノリノリな様子の一郎を前にしてそんな指摘はできなかった。
*****
その夜。
「なっ……!」
「どうしたんですか、一兄?」
「まずいことになった」
「えっ、どうしたの兄ちゃん!?」
仕事用のPCを前に難しい顔をする一郎のもとに、二郎と三郎が心配そうにしながら寄ってくる。
「昼間話したイベントの話なんだが……女も1人必要らしいんだ、俺らと同年代の」
顔の広い一郎といえど、コスプレを手伝ってくれる同年代の女性に心当たりはなかった。
「女性ですか……すみません、僕も知り合いに頼めそうな人はいないです」
「俺も、クラスの女子とかならいるけど、アニメは知らない奴ばっかなん――」
残念そうに答えた二郎は言葉の途中でハッとした表情になり、慌ててスマホを探しだした。
「どうしたんだ二郎?」
「い、いるよ! 1人、頼めそうな女子!」
「本当か!? でかしたぞ二郎!」
三郎は若干不満そうな表情を浮かべたものの、人脈については二郎の得意分野のため大人しく話の続きを待った。
「兄ちゃんと三郎も会ったことある人だよ。ほら、去年何回かうちに遊びにきた、明歩」
「……ああ、あの子か! 確かに、コスプレしてもらう予定のキャラ的にも適役だな……」
「そうなの? じゃあ俺、早速連絡してみるよ!」
「ああ、頼んだぞ二郎」
*****
【明歩視点】
「明歩〜、スマホ鳴ってんぞ」
「え、なんだろ」
お風呂上り、居間に戻ると帝統がスマホを投げてきた。
キャッチできたからいいけど、投げるなら一声かけてほしい。
適当に座ってスマホを見ていると、帝統が画面をのぞき込んでくる。
「男か?」
「ん〜……うん、男だわ」
来ていたチャットを見ると、二郎からだった。久々の連絡に驚きつつ、内容を見てみると、一郎くんの経営する萬屋に来た依頼で、どうしても女子が1人必要とのことだ。
「山田二郎って、イケブクロのヤツかよ?」
「うん、そうだけど……あれ、知り合い?」
「知り合いではねえな。ラップバトルん時見たことあるだけだ」
「……ああ、そっか!」
私が見たのはシブヤとシンジュク、シンジュクとヨコハマの試合だけだったから、すっかり忘れていた。知らされてなかったしね……今さらだけど、全部の試合見とけばよかったな。
「んで、ブクロの奴が何の用だよ」
「なんか、人手が足りないから手伝ってーって」
「手伝うのか?」
「うん。ちょうど予定ない日っぽいし」
「じゃあ俺も行く」
「え、何で?」
「別にいいだろ?」
「……電車賃あるの?」
「…………今から作ってくるぜ!!」
「は!?」
そう言った帝統は素早くいつもの服装に着替え、賭場へと向かって行った。