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物知りな夢主にことわざをねだる陽介という迷走した話
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【陽介視点】
「明坂ってさー、何でも知ってるよな」
昼休み。隣の席の明坂に、そう言ってみた。
明坂は少し不思議そうな顔をして、
「何でもは知らないわよ、知ってることだけ」
と答えた。
「なんかそれカッコいいな……ってか、お前、そんな喋り方だったっけ?」
「ううん。アニメのセリフ。一回言ってみたかったんだよね」
「ふーん」
アニメとか見るんだな……。意外だ。
明坂は、俺が転校してきたばかりのときも隣の席で、あの頃は色々とよくしてもらった覚えがある。
今もよくしてもらっているのだが。テレビの中も含め。
「で、どうしたの? いきなりそんなこと言って。何か欲しいのもでも?」
「おま、俺は子供じゃねーぞ……!」
「そう」
そう言って微笑む明坂。俺はこの表情が結構好きだ。――じゃなくてだな。
「何か、好きなことわざとかねえ?」
「え、ことわざ?」
「なんかこう、タメになるみたいな」
「為になる……? どうしたのいきなり」
「そういう気分なんだよ」
「ふーん」
そう言ってから、明坂は考える素振りを見せた。
「うーん、……あ」
「お、あった?」
「うん、為になるっていうよりは、花村くんにぴったりなことわざ」
「なになに?」
「『疾風に勁草を知る』」
「おお……、お?」
疾風……なんかカッコいいが……、どういう意味だろう。
「わかんない、って顔してるね」
「ゴメンわかんねー」
「えーとね、激しい風が吹いてはじめて強い草が見分けられるっていう意味」
「…………」
「『困難に遭ってはじめて、その人間の奥底に秘める意志や信念の堅固さが分かる』っていう意味なんだけど、あー……嫌なこと思い出させたかもしれないね」
「……いや」
こいつは本当に、人の気持ちがわかるやつっていうか、なんというか。