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【蓮視点】
例によってテスト前、ルブランで勉強会が開かれることになった。
が、今回の教師役は真ではない。
「蓮、こちらの方は?」
真のその問いで思い出したが、俺がうっかり言い忘れていたためみんな驚いていた。
「ごめん、言い忘れてた。今日勉強を教えてくれることになった、登坂裕斗さんだ」
「登坂です」
簡潔すぎる自己紹介をした登坂さんは、いつも通り愛想良く笑っている。
「ルブランの常連なんですか?」
という祐介の問いに、登坂さんはきょとんとした表情を見せ、違うよと否定した。
「常連ってほどじゃないよ、俺がこの辺に来たの今年の4月だから」
「えっ、偶然! 蓮と一緒なんですね」
「お仕事の転勤とかですか?」
杏や真も登坂さんに興味を持ち始め、とりあえず勉強会よりも質問大会が先のようだ。
「まあ、そんなとこかな。去年上司殴っちゃって、左遷されたんだよね」
「えっ……」
なんともリアクションを取りにくい話をフランクにされ、戸惑いを隠せないでいる女子2人。
「あ、別に大した話じゃないよ。それに、そいつよりさらに上の人と仲良くてさ、大した処分もなかったし。腐った組織だよねぇ」
「あの……お仕事は何をされているんですか?」
真はすでに怪しさ満点の登坂さんを若干警戒している。登坂さんは真面目な性格の人とはちょっと相性が悪めだ。
「警察官。今は四茶の交番で所長をやってるよ」
「警察……!?」
驚いた杏の呟きを聞き、登坂さんはおよそ警察官には見えない悪そうな笑みを浮かべる。
「あー、君たち何か悪いことしてるね。俺そういうのわかるよ」
「わ、悪いこととか、何もしてねーよ!」
動揺丸出しの竜司は否定するが、こうなった登坂さんに反論は無駄だ。
「露骨な反応だね、単に驚いたってのもあるんだろうけど。高校生くらいの子だと、警察って聞いたらまず"すごい"とかって感想が大多数だけど、君達は警戒してるように見えるな」
「っ、おい蓮! 何でこんな奴連れてきたんだよ!?」
「まさかこんなに相性が悪いとは、予想外だった」
「まあ別にいいよ、勤務時間外だし。取り調べとかちゃんとやるとめんどくさいし?」
「およそ警察官とは思えない発言だな……」
「よく言われる」
だろうな。
会話が途切れた後、みんながどう話し出すか迷っていると、つけっぱなしにしていたテレビからニュースの音が聞こえてきた。
怪盗団関連の内容だ。警察が容疑を特定しない形で俺たちを捜査しているという情報だった。
「交番勤務でも、その、怪盗団の捜査とかには関わったりするんですか?」
真が思い切った質問をした。
「あー、前の同僚から話は聞くけど、そういうのは交番じゃやらないかな。まず俺怪盗団肯定派だし、もし俺が見つけても見逃しちゃうね絶対」
「はあ!?」
「あと、悪人のついでに腐った警察の奴らも改心してほしいところだね」
「本気……?」
「まあ、腐ってるのは組織全体だからキリないけど。俺みたいに協調性ない奴はこうやって淘汰されるんだよねぇ……っていっても、俺今警視だし、交番も悪くないけどね」
「え、警視って……その若さで!?」
「キャリアだから普通だよ。まあ見た目ほど若くないしね」
「キャリア!?」
俺たちの中で一番警察事情に詳しい真は驚きっぱなしだった。
あとさらっと見た目は若いことを認める登坂さん、さすがの自信だ。
「そんなすげーの?」
いまいちピンときていない竜司たちは首を傾げていた。俺もその話を聞いたときは随分驚いたものだ。
「キャリアっていうのは――」
真の解説を聞いた竜司たちは、神妙な面持ちだ。
「なんかよくわかんねーけど、なんかヤベェのはわかったわ……」
「てか、うちらそんな人に勉強教えてもらえるんでしょ? 成績めっちゃ上がりそう」
「警視庁時代、良いものを食べていたんだろうな……」
三者三様の感想だ。
登坂さんが怪盗団肯定派だとわかったからか、みんなの警戒はすでに解かれていた。
「つかオレ、どっかで見たことある気ぃすんだよな……」
登坂さんを見て思い出したように言う竜司だが、俺としては今まで思い出さなかったことに驚きだ。
俺と竜司が大宅さんに会いに新宿に行った時、オネエ2人組から助けてくれた警察官。それが登坂さんなのである。竜司にとっては命の恩人のはずだ。
「なになに、ナンパ?」
「いや、ちげーよ!」
「新宿だろ。あの時、オネエさんから助けてくれた」
「……あー!! 思い出したわ! あん時はマジ助かったッス!」
あざっすと頭を下げながらお礼を言う竜司、こういうとこはきっちりしてるよなあ。めちゃくちゃ声デカいけど。
「新宿って、もしかして、金城のこと調べるのに2人で新聞記者に会いに行った時のこと?」
「なるほど。しかし、その"オネエさん"というのは一体……?」
「ヤメロ、思い出したくねえ……」
「そういえば、あのオネエさんたちとはあの後どうなったんですか?」
「飲みに行った。結構楽しかったよ。すげー身体触られたけど」
「マジかよ……」