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・中ボス戦
シャドウ奥村に呼ばれて認知上の裕斗が現れる。
『お嬢様、旦那様の指示に従ってください』
「裕斗くん……!?」
「落ち着けノワール! そいつも認知上の存在だ!」
「お嬢様、僕はここにおりますが」
認知杉村のとき以上に驚くノワ−ル。しかし当の本人は至って冷静だった。
『お嬢様、これ以上のわがままは困ります。旦那様の命令に従えないのであれば、実力行使に出るざるを得ません』
『登坂、なんとかしろ』
『承知しました』
ロボな見た目のシャドウ奥村とは違い、認知裕斗は服装もシンプルな執事服で、本物とそう変わらない人間の姿をしている。しかし抑揚のない口調と固定された表情は、奥村よりもよほどロボのようだった。
腰に何故か刀を携えている認知裕斗は、それを鞘から抜きつつ俺たちに向かって歩いてくる。
「モナちゃんっ、これって戦わないといけないの!?」
「ああ、逃げ場もねえしな……!」
「まだオタカラルートを確保できていないし、認知上の裕斗を消して、今日は一旦引き上げましょう?」
クイーンの提案にみんなが頷く。
「ブランも、それでいいか?」
認知存在とはいえ自分を倒すことに抵抗があるかも、と思い一応本人に確認してみたが、それは杞憂だったようだ。
「僕の許可を取る必要はありませんが、向こうはすでに攻撃体勢に入っています」
「はあ!?」
ブランは驚くスカルをよそに弓を引いた。放たれた矢は認知裕斗の頬をかすめて後方の壁に刺さる。
「はずしてんじゃねえか!」
「今のは威嚇です。相手の特性がわからない以上、反射される可能性がありますから、威力を抑えました」
しれっとスカルにそう言い返したブラン。弓を下ろした彼はナビの方に顔を向けた。
「物理は効果が薄いようですね」
「あー、ざっくり解析した感じ、ステータスなんかもブランと同じっぽい」
「それは厄介ですね」
「自分で言うのかよ」
「短期決戦は望めないという意味です。……僕と同じということは、スタミナがあるということでしょう。それに僕の弱点属性は祝福、この中で弱点を突けるのはジョーカーのみです。加えて物理・銃撃耐性、念動無効がありますから、魔法攻撃に長けるパンサー、モナさん、クイーンを主力とするのが得策かと思います」
「さっすがブラン、使える執事だな」
「身に余るお言葉です。ですが、あくまで提案ですので、判断はジョーカーに任せます」
「ブランの案を採用する。前衛交代だ」
「了解した。俺たちは後方支援に徹しよう」
フォックス、ノワールが下がり、代わりにパンサーとモナが前衛に加わった。クイーンは前衛続行だ。
『登坂、ここは頼んだぞ』
『承知しました。お気をつけて』
こっちが体勢を整えているうちに、シャドウ奥村は認知裕斗を残して立ち去った。
「認知上の僕はずいぶん旦那様に信頼されているようですね。まさかこの人数相手に1人置いていかれるとは。ご愁傷様です」
「言ってる場合か!」
「言ってる場合でしょう。僕はこの場において、せいぜい相手の防御力を下げ続けることくらいしかできません」
「ち、ちゃんと働いていやがったぞコイツ……!?」
「"使える執事"ですので。スカルも、ジョーカーにバフのひとつでもかけて差し上げたらいかがでしょうか?」
「ブラン、お前ほんとキャラ立ってんなー」
後方支援組はなにやら楽しそうだ。
ともあれ、ブランのデバフのおかげでだいぶ攻撃に手応えを感じるようになってきた。元が固すぎるんだが。
「それにしても、何故認知上の僕の武器が刀なのかが気になりますね。旦那様は使用人を何だと思っているんでしょう」
「ま、似合ってるしいいんじゃないか? "執事"なんて設定モリモリでなんぼだろ」
「そういうものですか。僕もまだまだ勉強不足ですね」
「その勉強、絶対しなくていいやつだろ」
「スカルはもう少し勉強されることをおすすめします」
「何で俺にだけ当たり強いんだよお前!?」
「戦いに集中しなさい!」
「はいっ、すみません!!」
クイーンの一喝にスカルだけが頭を下げた。