2
*****
登坂くんが入寮してからすぐにテストがあり、その後も屋久島に行ったり、アイギスが仲間に加わったり、初等科の天田くんが仮入寮したりと、色々なことが起きた。
彼は意外にも早く馴染んでいるようだった。
風花や順平は言うまでもないが、有里くんともたまに出かけたり、真田先輩と牛丼を食べに行ったり、天田くんと特撮か何かの話で盛り上がっていたり、桐条先輩とも普通に話してたり、果てはアイギスとも雑談――できているのかわからないが――をしているのだ。そういえばこの前、有里くん相手に何かを熱弁していたけど、あれは何だったんだろう。
……こうして思い出すと、あまり私とは話していない気がする。――別にいいけど。
今日はたまたま部活が休みで、早く寮に帰ると、ラウンジにいたのは登坂くん一人だった。
「おかえり、岳羽さん」
「あ……ただいま」
……気まずい……。
しかし一度立ち止まってしまうと、そのまま立ち去るのも何かよそよそしい感じがする。
「早かったね。今日は部活ないんだ?」
「え? ああ、うん。今日はね」
登坂くんは普段と変わらない様子で話しかけてきた。
「そっか。ところで岳羽さん、この後予定とかある?」
「特にはないけど、何か用?」
「少し話さない? しばらく誰も帰ってこないだろうし」
「私と? 別にいいけど……」
何の用だろう。それに、最後の一言が妙に気になる。誰かが帰ってきたらマズいことでもあるのだろうか。
「とりあえず、座りなよ」
そう言って、二人がけのソファに移動した登坂くんは、自分の隣をポンポンと軽く叩いた。
「なんで隣!?」
思わずツッコんでしまった。
「え? 近いほうがいいでしょ?」
何が!?
……まあ、いいけどさ……。
促されるまま隣に座った。
ソファに腰を下ろすと、登坂くんは一人分くらいの幅をこちら側に詰めてきて、つまりだいぶ近い。
「ち、近くない?」
そう問えば、
「そうかな。僕はいつもこのくらいだけど」
絶対嘘だ……!
こんな距離で人と話す登坂くんなんか見たことない。
「どうしたの?」
私が急に黙ったのが気になったのか、登坂くんはこちらを覗き込むようにして、上目遣いで様子を伺ってきた。
ホストかとツッコミを入れたいところだが、実際それで通ってしまいそうなくらいには整った顔をしている――とは思うけど。
「ところで岳羽さん、今好きな人とかいる?」
「は?」
登坂くん、恋バナとかするの……!?
「い、いないいない! てか、登坂くんこそどうなの? モテるでしょ」
「僕? 好きな人はいるけど、脈なしだな、今のところ」
モテるというところを否定しなかったのには驚いたけど、それ以上に彼に好きな人がいるなんて考えたこともなかった。
「いるの!? 誰!?」
「岳羽さんだけど」
「……え?」
タケバさん? そんな人いたっけ、なんて。
「僕は岳羽さんのことが好きだけど、岳羽さん、僕にそんなに興味ないでしょ」
「は、え……?」
突然のことに混乱していると、登坂くんがだんだん近づいてくる。もともとこれ以上ないほど近かったのに。
「引いて駄目なら押してみろって、アドバイス貰ったんだ。だから実践」
「…………岳羽さんって、私!? てか近ッ!」
「え? じ、時間差だね」
思いの外あっさりと離れていった登坂くん。
「はぁ……ここまで意識されてなかったのか」
「い、意識って……登坂くんこそ、私とあんまり喋ろうとしてなかったっていうか……」
「いや、それはただ恥ずかしくて……」
そんな乙女みたいな理由だったの?
ていうか、"引いて駄目なら押してみろ"とか言ったヤツ誰なの? バカなの?
「ともかく、僕、これからは積極的に落としにかかるから。覚悟しててね、ゆかり」
唐突に手を繋がれて、囁くように名前を呼ばれる。
だからホストかっての!
「……の、望むところ!」
絶対、落ちてなんかやらないんだから!