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登坂くんが入寮してからすぐにテストがあり、その後も屋久島に行ったり、アイギスが仲間に加わったり、初等科の天田くんが仮入寮したりと、色々なことが起きた。

彼は意外にも早く馴染んでいるようだった。

風花や順平は言うまでもないが、有里くんともたまに出かけたり、真田先輩と牛丼を食べに行ったり、天田くんと特撮か何かの話で盛り上がっていたり、桐条先輩とも普通に話してたり、果てはアイギスとも雑談――できているのかわからないが――をしているのだ。そういえばこの前、有里くん相手に何かを熱弁していたけど、あれは何だったんだろう。

……こうして思い出すと、あまり私とは話していない気がする。――別にいいけど。

今日はたまたま部活が休みで、早く寮に帰ると、ラウンジにいたのは登坂くん一人だった。

「おかえり、岳羽さん」

「あ……ただいま」

……気まずい……。

しかし一度立ち止まってしまうと、そのまま立ち去るのも何かよそよそしい感じがする。

「早かったね。今日は部活ないんだ?」

「え? ああ、うん。今日はね」

登坂くんは普段と変わらない様子で話しかけてきた。

「そっか。ところで岳羽さん、この後予定とかある?」

「特にはないけど、何か用?」

「少し話さない? しばらく誰も帰ってこないだろうし」

「私と? 別にいいけど……」

何の用だろう。それに、最後の一言が妙に気になる。誰かが帰ってきたらマズいことでもあるのだろうか。

「とりあえず、座りなよ」

そう言って、二人がけのソファに移動した登坂くんは、自分の隣をポンポンと軽く叩いた。

「なんで隣!?」

思わずツッコんでしまった。

「え? 近いほうがいいでしょ?」

何が!?

……まあ、いいけどさ……。

促されるまま隣に座った。

ソファに腰を下ろすと、登坂くんは一人分くらいの幅をこちら側に詰めてきて、つまりだいぶ近い。

「ち、近くない?」

そう問えば、

「そうかな。僕はいつもこのくらいだけど」

絶対嘘だ……!

こんな距離で人と話す登坂くんなんか見たことない。

「どうしたの?」

私が急に黙ったのが気になったのか、登坂くんはこちらを覗き込むようにして、上目遣いで様子を伺ってきた。

ホストかとツッコミを入れたいところだが、実際それで通ってしまいそうなくらいには整った顔をしている――とは思うけど。

「ところで岳羽さん、今好きな人とかいる?」

「は?」

登坂くん、恋バナとかするの……!?

「い、いないいない! てか、登坂くんこそどうなの? モテるでしょ」

「僕? 好きな人はいるけど、脈なしだな、今のところ」

モテるというところを否定しなかったのには驚いたけど、それ以上に彼に好きな人がいるなんて考えたこともなかった。

「いるの!? 誰!?」

「岳羽さんだけど」

「……え?」

タケバさん? そんな人いたっけ、なんて。

「僕は岳羽さんのことが好きだけど、岳羽さん、僕にそんなに興味ないでしょ」

「は、え……?」

突然のことに混乱していると、登坂くんがだんだん近づいてくる。もともとこれ以上ないほど近かったのに。

「引いて駄目なら押してみろって、アドバイス貰ったんだ。だから実践」

「…………岳羽さんって、私!? てか近ッ!」

「え? じ、時間差だね」

思いの外あっさりと離れていった登坂くん。

「はぁ……ここまで意識されてなかったのか」

「い、意識って……登坂くんこそ、私とあんまり喋ろうとしてなかったっていうか……」

「いや、それはただ恥ずかしくて……」

そんな乙女みたいな理由だったの?

ていうか、"引いて駄目なら押してみろ"とか言ったヤツ誰なの? バカなの?

「ともかく、僕、これからは積極的に落としにかかるから。覚悟しててね、ゆかり」

唐突に手を繋がれて、囁くように名前を呼ばれる。

だからホストかっての!

「……の、望むところ!」

絶対、落ちてなんかやらないんだから!

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