※高校生設定




高校に入って同じクラスになった
切原くんの第一印象は一言で言うと
こわい、だった。

直感なのか偏見なのか
切原くんの中身は1ミリも知らないけれど、なんとなく目つきとオーラが怖くて近寄りがたい。ああいう人は近づかずに関わりを持たない方が一番いいことも分かる。一年無事に過ごせますように。そう思って春も夏も過ごしてきた。

でも人生そう上手くはいかないもので、
そんな祈りもこの秋に入り、虚しく散るのだ。


「じゃあ今年の立海祭の委員は切原と苗字で決定な!」

「え!」

「はあ!?」

だって誰も立候補いないんだからくじしかねーじゃん、となんとも適当なうちのクラス委員長が告げた。まじか最悪だ。
せっかくクラスの対角線上で席も離れていた切原くんとまさか一緒の委員になるなんて‥

ちらりとこちらを見てきた切原くんの視線には気づかないふりをして、そのまま机に突っ伏した。







「え、と‥苗字、だっけ?」

「!、あ、うん。あってる」

こりゃまた驚き。放課後、切原くんから話しかけてきた。私も動揺が隠せないが、彼の方もなんだか気まづそうだった。そりゃそうだ。ほとんど話したこともないんだもん。

「いいんちょーがさ、今日から早速学祭の集まりあるって言ってきたんだけど、苗字来れる?」

「え、そうなんだ。私は大丈夫だけど切原くん部活は?」

「俺はもう先輩たちに言ってあるから大丈夫」

あの人たちおもしろいもの見つけたみたいな顔してたけどほんと性格悪ぃ、と文句を言いながらもなんだか少し嬉しそうな切原くん。
あれ、なんか私が思ってた印象と違うのかも。

「西校舎の多目的ルームでやるらしいから、行こうぜ」

「うん」

切原くんを待たせないように、なるべく手早く荷物をまとめ、席を立った。切原くんと並んで歩く廊下はなんだか新鮮で、上手く言葉が出てこない。なにを話したらいいんだろう。お互いの間にある微妙な距離は友達とのそれではなかった。しかも西校舎に来た途端、少し切原くんの歩調が早くなる。西校舎は2年生の教室がある場所だけど、出会いたくない人でもいるのだろうか。

「、げ。」

「え?」

「おーう!赤也じゃん。なーにやってんの?」

赤い髪と緑のフーセンガムでなんともコントラストが上手くとれた人が切原くんを見つけて声をかけてきた。あ、なんか知ってるかも。テニス部の確か‥「丸井先輩にだけは会いたくなかったぜーー」

丸井先輩だ!
立海テニス部は有名なので名前くらいはなんとなく知っていた。

「お前先輩に対して失礼だろい」

「早く部活行ってくださいよ!」

「いやいや、お前も部活サボってデートしてんじゃねーよ」

「なっ!ちげーし!今から学祭のミーティングなんスよ!」

「ふーん。‥‥なあ、こいつ怖くない?だいじょぶ?」

くりっとした目で私を覗き込む丸井先輩。ほらこいつガラわりーじゃん、と少し困ったような顔で尋ねてきた。

「あ、えーと、思った以上に怖くない、かもしれないです。」

「ぶっ‥!赤也お前やっぱり怖いんじゃねーかよい!」

「いやいやいや!今怖くないって言ってましたよ!」

必死になって抗議する姿の切原くんも初めて見る姿だった。でもなんだかとっても楽しそう。丸井先輩も切原くんも本当はすごく仲良しなんだろう。


「切原くん、そろそろ行かないと」

「やべっ、じゃあ丸井先輩また部活でー!」

「おーう。じゃーな」

丸井先輩に手を振って、急いで多目的ルームに向かった。来たのは私たちが最後で、空いていた一番後ろの席に二人でそそくさと座る。ギリギリセーフだな!といたずらっぽく笑う切原くんがなんだかくすぐったくて、配布されていたプリントから目が離せなかった。ギャップってやつだこれ。



「‥‥寝るのはや。」


気づいたら隣で切原くんは、すやすや寝息を立てていた。ふわふわの毛が風に揺れる。しょうがない、代わりにちゃんと話を聞いておくか。寝顔を見ていたい気持ちを抑え、前を向いた。


ミーティングは30分くらいで終了し、切原くんを起こすと、必死の形相で謝ってきて、必死すぎて笑ってしまうと、少しご機嫌を損ねたようでムスッとしてしまった。あ、やば。


「とりあえず配布物とか、私教室に持って行っておくから、切原くん部活行ってきていいよ」

「いい、俺も一緒に行く」

「いいの?」

「いいって!ほら、早くぞ!」


優しさなのか責任感なのか、彼は大きな荷物を一人で持ちずんずんと歩いて行ってしまった。置いていかれないように小走りで追いかけて誰もいない教室へと入る。


「ありがとね、荷物運んでくれて」

「別に大したことねーよ
‥‥あのさあ」

「ん?」

「俺のこと怖い?」

「えっ、」

「あ、いや、別に怖いって思われてても全然ヘーキなんだけどさ、それでよく女子には避けられること多いから‥」

ごにょごにょと言葉尻はほとんど聞こえない。が、顔を真っ赤にして凹む切原くんの言いたいことは全て伝わった。
要するに女子に怖がられて避けられて、傷ついている、そういうことだ。きっともっと仲良くなりたいんだ。ねえ、そうでしょう。可愛いところ、あるじゃん。

「私もっと切原くんのこと知りたいな」

「へ、」

「第一印象はほんというと怖かったけど、今日一日だけで、思ってた切原くんと違う切原くんを見れたから。」

「‥たとえば?」

「先輩のことすごい好きな切原くんとか、すぐ寝ちゃう切原くんとか、意外と重いもの率先してもってくれる優しいきりは「だあーーーー!!分かった!もう分かった!」」

「意外と照れ屋なとことか。」

「‥っ、」

「切原くん」

「、はい」

「私と友達になってくれる?」

「え」

「切原くんと友達になれたら毎日楽しそうだから」

「お、おう!!もちろん!なってやるよ、しょーがねーなー!」

「じゃあこれからもよろしくね」



手を差し出すと、彼は少し驚いた表情をした後、満面の笑みで握手をしてくれた。和やかな雰囲気もつかの間、じゃあ俺部活行くから!と手を振りながら去っていく切原くんは嵐のようだ。

取り残された私は教室の窓から外を覗いた。そう、この教室からはテニスコートが見える。きっと走る切原くんがもう少しで見えるはずだ。






「丸井せんぱーーい!」

「おー、赤也。終わったかよ」

「聞いてください!俺、女子の友達できたっす!」

「はあ!?
お前今までいなかったの!?やべーじゃん‥てか、さっきの子だろい?」

「え、なんで分かるんスか!?丸井先輩エスパー!!?」







あーあ、
丸聞こえだよ。







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