17日



 今日は満寵殿の屋敷に招かれて皆で飲んでいる。結婚のお祝いを奥方にもしたいと言ったら、少しだけ渋ったものの、招いてくれたのだ。あの満寵殿が惚れ込む女性を見てみたいという下心があり、満寵殿もそれを感じ取っていたから渋っていたのだろうけど、私がしつこく頼み込んだから根負けをしたのだろう。実際に宴が開かれても奥方は一度お酌をして少し会話をしたきり、料理を運ぶ時以外は満寵殿の隣にいた。事前に満寵殿の側から離れないようにと言われたのだと思うと、聞き分けの良い芯のしっかりとした女性であることがわかる。外見も派手さはないものの、艷やかな黒髪ときめ細やかな白い肌が印象的な美しい人だった。その艷やかな髪には前に満寵殿と共に選んだ簪が挿さっていた。あの時はもっときらびやかなものを送った方がいいと助言したけど、確かにこの奥方にはこれくらいのものの方が似合っている。奥方を見すぎたせいか、満寵殿が不服そうに咳払いをした。私は笑って誤魔化し、杯に入っていた酒を飲み干した。

 酒がある程度回ってきた頃、満寵殿が少し席を外してからまだ戻ってきていないことに気付いた。この場は酔いの回った荀攸殿とそれを面白くからかう賈詡、それを止めようと必死な荀ケ殿で盛り上がっているから、私が抜け出しても大丈夫だろう。席を立とうとしたら、目ざとい荀ケ殿に見つかってしまった。

「郭嘉殿、どちらへ行かれるのですか?」
「ちょっと中庭まで歩いて酔いを冷ましてこようかな」
「人様の家なのですから、あまりふらつかないで下さいね」
「もちろん、わかっているよ」

 荀ケ殿は疑いの目を向けたままだったけれど、賈詡がまた荀攸殿に悪戯をしかけようとしていたから慌ててそちらに向かった。その隙に部屋を出て屋敷内を歩くことにした。
 廊下を進み、中庭に差し掛かろうとした時、満寵殿と奥方が中庭にいるのを見つけた。思わず身を隠したけれど、宴を抜け出して二人して何をしているのか気になってしまう。何かを話している様子だったけど、ここからは会話はとぎれとぎれにしか聞こえなかった。耳をすまして聞こうとした時、満寵殿が奥方の頬に触れ、そのまま影が重なった。奥方は最初は離れようと満寵殿の胸を押していたけど、すぐに諦めて満寵殿になすがままにされていた。随分と長い間口づけを交わしていて、満寵殿が離れた頃には奥方の力が抜けていて満寵殿にしなだれかかっていた。酔いすぎですよ、という奥方の声が聞こえてきたけど、あの満寵殿が酔っている訳がない。この先どうなるのか最後まで見ていたい気持ちもあったけど、荀ケ殿に怒られてしまいそうだからそろそろ戻るとしよう。身を引きかけた時、満寵殿と目が合った。満寵殿は挑発的に笑うと、そのまま奥方のこめかみの辺りに唇を落とした。ああ、やっぱり満寵殿は酔ってなんかいない。最初から私に気付いていて、奥方との仲を見せつけたのだろう。そんなことをしなくても満寵殿のことしか見ていない人妻には手を出さないから安心してほしいのに。でも満寵殿の面白い一面が見れたことだし、これを肴にもう一度飲み直すとしようかな。


20210317

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