31日 side満寵



 私の体が動かなくなってからは、毎日彼女が昔話をしに来てくれる。出会った日のこと、結ばれた日のこと、喧嘩しそうになった日のこと、守れなかった約束をしてしまった日のこと。懐かしい話もあれば、そんな話あったっけ、というようなものまで出てきた。ついこの間まで現役だった私にとって、今彼女と過ごしている日々がとても穏やかで幸せだ。だけど、今日の彼女の話を聞き終えた時、急に胸の痛みが強くなった。自分の死期がもうそろそろだと悟る。その時、遥か昔に夢半ばに聞いていた彼女の話を思い出す。輪廻という言葉に興味を持った彼女が、もし私達が生まれ変わったら再び出会えるのかと聞いていた。その時は思考中に眠ってしまい、その後もわざわざぶり返す程の話でもないと思って答えていなかったけど、今ここで伝えなければならないと思った。彼女の手が私の体にかかった時、その手にそっと触れた。そして彼女の名前を呼ぶ。いつぶりかに出す声はほとんど声にならなかったけど、口元に耳を寄せてくれた彼女に何としてでも届けたかったから、力を振り絞って声にした。

「生まれ変わることができたら、また次も貴方と共に生きたいと思う。絶対に見つけ出すからね」

 伝え終えると同時に体の力が抜けていった。大丈夫、もう言い残したことはない。彼女の腕の中で生涯を閉じれるなんて何と幸せなのだろう。彼女の「伯寧様、おやすみなさい」という声を遠くに感じ、私の意識はそこで終わった。


20210331

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