満寵とバレンタイン2021*
帰り支度をするのに鞄を開けた時、小さな紙袋に入ったチョコが目に入り、ため息をつく。勇気を出して買ったはいいものの、午前中しか渡すチャンスはなかったのに渡せず、満寵さんは午後から外部研修に出てしまい、先程直帰すると会社に連絡が入ったのだ。渡したかったけど仕方がない。こういう時のことを考えて私の好きなメーカーのを選んでいたから、自分用チョコが増えたと思えばいい。支度が終わって部屋を出てぼーっと廊下を歩いていたら、曲がり角で誰かとぶつかりそうになった。すみませんと言って顔を上げたら、帰ったはずの満寵さんが目の前にいた。
「すみません、怪我はないですか?」
「大丈夫です。こちらこそすみませんでした」
「それはよかった」
「あの、直帰したはずじゃ…?」
「ああ、忘れ物したので取りに戻りました」
満寵さんはそう言うと、では、と言って部屋に向かおうとした。私もそのまま帰ろうとしたけど、廊下に誰もいないことに気付き、渡すなら今しかないのではと頭を過る。反射的に満寵さんの名前を呼び、彼を呼び止めてしまった。どうかしましたか?と振り返る満寵さんに、慌てて鞄の中をあさり、紙袋を取り出して差し出した。
「あのこれ、迷惑じゃなければ…」
「これを私に?」
満寵さんの問い掛けに目を反らして頷く。こんな急に押し付けるような形で渡されても困ってしまうかもしれない。だけど私の不安とは裏腹に、満寵さんはチョコを受け取ってくれた。
「ありがとうございます。大事に頂きますね」
「あっ、こちらこそありがとうございます」
渡す時に一瞬だけ目が合い、ふわっと微笑まれた。その後満寵さんはすぐに部屋へと向かって行ったけど、先程の微笑みにやられた私は心臓がばくばくと鳴り止まず、その場から動けなくなっていた。小さな紙袋だったせいか、渡す時に満寵さんの大きな手が包み込むように触れたのも心臓が鳴り止まない原因の一つでもある。手に残った満寵さんの温もりをぎゅっと抱いて、小さな声でよしっと呟いた。
20210214