満寵


 懐かしい声が聞こえた。街のあちこちから聞こえる伯寧を称える声。それに応える伯寧の声は、とても懐かしかった。数年という長い時間をかけて少しずつ消えかけていたけど、今この瞬間、空白の数年間が元に戻った。この街を出て行く前に伯寧に言われた言葉がある。

「いつになるとは言えないけど、必ず君を迎えに行くから、その時は私と共に来てほしい」

 似たような言葉を残して二度と帰ってこなかった人は数え切れない程いるだろう。周りの人に話しても、「騙されただけだ」「帰って来るわけがない」と馬鹿にされた。それでも私は伯寧の言葉を信じて、必ず戻ってくると信じて待ち続けた。
 沢山の人に囲まれて困った様子の伯寧を少し離れた所から見ていたら、伯寧が少しだけ顔を上げた。視線が絡み合った気がした。一瞬の出来事だったけど、その瞬間に私達の間に流れた時間は凄く長く感じた。伯寧はもう視線を戻してしまったけど、私がずっと待っていたことを伝えるにはあの一瞬だけで充分だ。目の前の人だかりを後にして、家へ戻る。早くあの優しい声で名前を呼んでほしい。だから、その瞬間までは、今まで通りここで伯寧を待ち続けるのだ。


20220701

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