起きたら隣に満寵がいる話2

 
 調練を終えて午後の仕事まで少し時間ができたから、ゆっくり食事でもとろうと思い、食堂へと向かった。
たくさん体を動かしたからがっつり炒め物もいいけど、久々に蒸し物も食べたい。甘味も追加しようかな。軽い足取りで食堂に入ったら、何だかいつもよりも視線を感じる。良い所の家出身でもない上に女のくせに将を務めるなど、と言いがかりを込めて視線を頂くことは少なくないし、何なら絡まれることもある。でも今日の視線はそれとはちょっと違う気がする。どちらかというとあまり刺さらないというか、好奇の視線というか…。

「よお、ななし!」
「夏候淵殿。お疲れ様です」

 後ろから背中をばしっと叩かれて前のめりになったのを、半歩出して踏ん張る。この豪快な声と挨拶は振り向かなくても誰のだかわかる。

「お前よかったな!」
「え?何がですか?」

 夏候淵殿に誉められるようなことはした覚えがない。今日だって普通に調練をしていただけだし。それとももしかして私に伝わるよりも先に上の方で何か大きな事が決まったのだろうか。

「照れんなよ!満寵と良い仲になったんだろ?」

 言ってる意味が理解できず、すごい顔をしたまま止まってしまった。何とか頭を回転させて考えたけど、答えが出ずに出てきた言葉は

「は?」

 失礼だとは思ったけど、正直夏候淵殿ならいいかなとも思ってしまった。殿や曹丕殿には間違っても言えないけど、この人くらいならと。

「あ?違うのか?」
「違います!どうしてそうなるんですか!?」
「今朝ななしの部屋から満寵が出てきたのを見たって李典が言ってたぞ」
「うわ…」

 最悪な所を最悪な人に見られてしまった。頭を抱えたくなったけど、夏候淵殿が話を続けた。

「それで李典が満寵に聞いたら、昨夜ななしと飲んでいてそのまま寝てしまったから、今から部屋に帰るんだと」
「なぜ!?素直に答えた!?」
「ななしのその反応、一夜を共に過ごしたのは本当なんだな」
「その言い方はいけません!確かにそうなるかもしれないけど、何もやましいことはないです!」
「本当にか?」
「ないです!いつも通りお酒を酌み交わしてて、連日寝てなかった満寵殿がそのまま寝てしまっただけです!」
「ほお…いつも夜に部屋で酒を酌み交わしてるのか」
「あっ…いや、純粋にお酒を飲んでいるだけで…本当に何もないですから!」

 夏候淵殿はこういう性格だけど、気付くことにはよく気付くというか、今は何を喋っても弁解しても墓穴を掘るだけになってしまいそうだ。

「とにかく!満寵殿とは何もないので勘違いしないで下さいね!」
「あ、ななし!飯食うんじゃねーのか!?」

 今朝のことが周知されてしまったことと、これ以上声の大きい夏候淵殿と一緒にいるとろくなことがないと思ってご飯は諦めることにした。
この怒りのまま満寵殿の執務室にでも行ってやろうかと思ったけど、食堂には一人とも軍師の姿がなかったから、軍議はまだ終わっていないんだろうと思い、仕方なく執務室に向かう。


20190309

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