微睡みの中も油断大敵


R15くらい。ちょっと注意。



「お前さん……俺の話ちゃんと聞いてたか?」

「聞こえてるよ!そう何度も言わなくても分かってますー!」


ため息混じりの彼の台詞に、こんな子供じみた言葉を返すのはもう何度目だろうか。最初こそマスターを気遣うサーヴァントの言葉のように思えたそれは、いつしかしつこい苦言に思えていた。


「とにかく!カルデアと通信が繋がるまでは下手に動かないように!良い?分かった?」

「へいへい。」


再び聞こえたため息を無視し、一先ず身を隠せそうな場所を探す。深い木々に囲まれてはいるが、空気の重さから一雨きそうな予感がしていた。そしてそれは、すぐに現実のものとなる。


「冷た……っ、降ってきた!」

「これ被ってろ。走るぞ!」

「わっ!えっ??」


投げるように掛けられたそれが彼の上着だと理解するのより早く、その体はぐんと前方に勢いよく引かれた。上着が落ちないよう片手で押さえつつ、肩を抱かれるような体勢のままぬかるむ山道を駆ける。強く降り頻る雨と背丈ほどもある草によって先は見えず、レイシフトしてから経過した時間を計算すれば、そろそろ夜も近いのだろう。薄暗い景色に、ずいぶんとあそこで口論していたのだと実感する。

どうしてこうも、彼との連携は上手く行かないのだろう。彼がキャスターだから?


(クラス違いは勿論、他のみんなとだってそれなりに連携出来ているのに……)


ふと、上空の風が揺れた。


「ワイバーン………?!」

「ちっ、まずいな。マスター、口閉じてろ!舌噛むなよ!」

「へ?」


木々の隙間、夜の帳を纏う空を何かが飛んでいった。はっきりとは見えなかったが、これまでの経験からそれがワイバーンだと推測する。それは彼も同じなのか、彼が少し焦りを含んだ声でそう続けた。


「ちょ、キャスーリン?!」

「口開けてっと舌噛むぞ。」


お姫様抱っこ、なんて体勢にロマンは無く。クー・フーリンはリツカを抱えると駆け出した。自分で走れると言うべく顔を上げたリツカだったが、思ったより近い彼の表情についぞ口を閉ざしてしまうのであった。






「いやー、一時はどうなるかと思ったな。」


どれほど移動しただろう。山道を辿った先に、二人は小さな山小屋を発見した。辺りは既に夜の闇に包まれ、尚も降り続く雨によってひんやりとしている。下手に動くなと言った矢先にこの大移動であったが、こうした山小屋はドクターが自分達を探すためのポイントとなるだろう。そう結論付けて、リツカは漸く一息付いた。


「ほら、火が付いたぜ。」

「ん、ありがと。」


囲炉裏に灯った火が、部屋をいっそう明るくする。一つだけあった窓には布を張り、外に明かりが漏れないよう対処してある。そんな手際の良さを披露した彼はというと、土間の端で雨で重くなった上着を大雑把に絞っていた。


「しっかし、ここまで来ると逆にスゲーよな。」

「何が?」

「俺とお前さんの時くらいじゃねぇの?こうした災難な目に遭うのは。」

「それ、自慢にならないからね?」


しかし、言われなくとも思い起こせばその通りである。連携を深めるためのレイシフトで、どうしてサバイバルしなくてはならないのか。


「ってお前、その格好のままじゃ風邪引くだろ?」

「あー、まあ、そうかもね。」

「ったく、ちょっと待ってろ。」


再びため息混じりに言葉を残し小屋の奥へと消えたクー・フーリンの背中を見送り、リツカは囲炉裏に手を翳した。じんわりと、手のひらから熱が伝わる。以前はキャンプファイアーだったなぁ、なんて思いだし、自然と笑みが溢れる。

大変だけど、楽しかった。だからこそ、連携を深めるためという理由を付けてまた二人だけでレイシフトしたのだ。信頼しているから。そしてあの日あの時、何だかんだで優しかった彼に惚れてしまったから。


(二人きりになりたいから、レイシフトしたんだって言ったら怒るかな?)


そりゃ怒るだろうな、と自分で答えを返す。キャスターの彼は、何となくだが幾分ランサーの時の彼よりこういったことに厳しい気がする。それはきっと、いろいろ経験をしてきたからだろう。


「ぼーっとしてっと、背後から襲われんぞ。」

「ひゃあああああっ!」

「色気ねー声。」

「うっさい!そう思うなら脅かさないでくれる?」


反論の言葉は、被せられた布の下に押し止められた。わしゃわしゃと髪を乾かすかのように布越しに頭を撫でられる。漸く解放されたかと思いきや、そのままますっぽりと彼の腕の中に収まる。どういう状況なんだ、これは。


「キャス……」

「名前、呼んでくれや。マスター。」

「クー……」


言い出したのは彼であったが、素直に従った言葉は彼の唇によって飲み込まれた。どうしてこうなったのか、理解が追い付かない。深まる口付けに翻弄され、息が苦しい。酸素を求め開いた口に入ったのは彼の吐息と熱い舌。初めての感覚に、背筋がぞわそわとする。

ふいに彼の手が頂に触れ、身体がビクリと跳ねた。その反応が面白かったのか、頭上から小さく圧し殺しした笑い声が聞こえる。


「可愛いとこもあるじゃねぇか。」

「な……っ、ん!」


いつの間にかはだけられた上半身を、彼の手が卑猥に動く。額に、瞼に、鼻先に、落とされる口付けが心地好い。肌と肌の触れあう温もりが、冷えきった身体を溶かしていくようで。頭の奥がぼんやりする。なぜ、どうして、理由を知りたいのに声にならない。


「リツカ……」

「ん、クー……」


着ていた服が脱がされる。恥ずかしいとか、そんな事を考えている余裕なんてなくて。


「リツカ……」


私の名前を呼ぶ、その声に安堵して。


「……………っ!」


チュン、チチチと小鳥の囀りがはっきりと聞こえた。


「えっ?」


外がやけに明るい。もう昼が近いのだろうか。雨はとっくに上がったようだ。一つの毛布にくるまるリツカとキャスーリンは、互いに一糸纏わぬ姿で……


「ええっ!?」


昨日の記憶がはっきりと思い出せない。彼と連携のためもとい二人きりになりたくてレイシフト。ドクターと通信が繋がらなくて、しかも雨が降ってきてこの山小屋に避難したところまでは覚えてる。


「あれ?私囲炉裏にあたってて、それで……」

「んー、あー、おはようさん。」


隣で伸びをしながら、今起きたのだろうクー・フーリンがそう続けた。


「おはよ……」


目のやり場に困る。正面を見ながらそう返せば、隣から聞こえる笑い声。彼は確信犯なのか?


「どうした、マスター。」

「べ、べつに。」


動揺を気付かれたくなくて、外を見るフリをして背を向ける。この状況、まさか致してしまったのか?


(いやいや、別に身体に変なとこないし彼だってまさかマスターにそんなことするわけないし。そもそも私マスターだし。)


落ち着かない状況に、自分でも何を考えているか分からなくなってくる。落ち着こうと息を深く吸えば、隣から伸びた腕が髪を一房掴む。


「やっぱまだ身体だるいのか?昨日ちゃんと休ませるつもりだったんだが……」

「え……」


昨日ちゃんと休ませるつもりだったんだが、なんだ?結局寝かさないぜオールナイトって事なのか?なんとなく身体がだるいのはそのためか?


(いや、でも魔力供給のためにするっていうのも聞いたことあるし……うん……)


問題はそこではないのだが、とりあえず服を返して欲しい。このまま裸族になるつもりはないし、やはり寝起きなのもあって寒い。


「リツカ……」

「っ、な、なに?」


名前を呼ばれるとともに腕を引かれ、未だ寝転ぶ彼の胸に覆い被さる形となる。そのまま後頭部を抱き抱えられ、かなりの密着状態に。


「あ、あの、キャスーリン?」

「言っとくが、濡れたまんまじゃ風邪引くって話の時にお前が寝ちまったんだからな。」

「へ?」


やはりため息とともに吐き出された言葉に、拍子抜けする。私は風邪を引いたのか?


「服も乾かさなきゃなんねーし、そのまんま寝かしとくと体温奪われっからよ。仕方なしに、だな……」


ちらと彼を見上げれば、彼もよっぽど恥ずかしかったのだろう。耳まで赤くなっている。その姿が可愛くて、腕を伸ばし頬をつついてみる。


「ちょ、おま、聞いてたか俺の話!」

「聞いてましたー!キャスーリン耳まで真っ赤!可愛い〜!」

「なっ、お前……この!」

「きゃあっ!」


形勢逆転、上にキャスーリン、背には床が。纏っていた毛布も下に敷かれ、動くより先に手は左右に縫い付けられる。


「なかなかの絶景だな。ごちそーさん♪」

「やっ!やだ!キャスーリンのヘンタイ!バカ!はなせーっ!!」

「1日オアズケくらったんだ、ちっとは大人しくしてても良いんじゃねぇのか?」

「そういう問題じゃないー!」


結局、貞操は守られたとか。




微睡みの中も油断大敵


(実は密かな相思相愛)




mae | tsugi