幕間のネタバレを含みます。
ジークフリート。邪竜ファヴニールを討伐したとされる、名高き竜殺し。その血を浴び、不死身となったという逸話が有名な戦士である。
「俺がサーヴァントとして召還されたという事は、邪竜ファヴニールが実在する、という証明でもある。」
邪竜ファヴニールが復活した。そんなジークフリートの言葉を辿り、リツカはかつての特異点・フランスへとレイシフトしていた。
―――のだが……
「どうやら、何処にも出入口らしき扉は無さそうだ。通路か何かなのだろう。」
「ええっ!?ちょ、どうしよう。」
リツカとジークフリートは、暗闇の最中にあった。生体反応が感知され、確認すべく入り込んだ砦内で地面が崩れまっ逆さま。マシュはなんとか落ちずに済んだようだが、地上へ出るにはもはや遥か上に見える穴から出るしかなさそうだ。
「せんぱーい!ジークさーん!無事ですかー!」
心配そうに叫ぶマシュの声が暗闇に反響する。見上げれば、頭上の穴からこちらを覗き込む彼女の姿がうっすらと見えた。出口まで随分と距離がありそうだ。
「こっちはなんとか大丈夫ー!でもそこからしか出られないみたいー!」
「ええええっ?!」
同じく叫んでみたが、どうやら伝わったようだ。かなり地下深くなのだろう、今のところロマンとの通信も繋がる気配はない。頼みの綱はマシュ一人という状況だ。
「わ、私何かロープとか無いか探してみます!少しだけ待っていて下さい!」
「気を付けてねー!マシュー!」
早くもロープを探しに行ったのだろう、マシュからの返事は聞こえなかった。
「さて、それにしても災難だったね。」
「すまない。俺が先々進んでしまった為にマスターをこんな目に遭わせてしまった……」
「かなり荒れ果ててると分かっていながら砦に突っ込んだのはこっちの責任でもあるし、ジークフリートだけのせいじゃないって。」
地下深いこの空間では、次第に慣れてきたとはいえジークフリートの姿はほぼ見えない。向こうからもそうではないかとは思いつつ、身振り手振りで言葉を返す。事実、先頭こそジークフリートであったが、そもそも砦内に生体反応が確認され討伐するよう指示を出したのはリツカの方である。
「まあ、起きたことを悔やんでも仕方ないし、今はマシュ達が脱出手段を見つけてくれることを期待しよう。」
「そうだな。すまない、マスター。感謝する。」
「いいっていいって。入り口待機してたケルトの二人も居るし、マシュならなんとかしてくれるはず。心配しなくても大丈夫だよ。」
そう続けながら、リツカは空間の端へと歩き始めた。通路という表現は正しいようで、横への移動距離は思ったよりも無い。背後もそう広くはなさそうで、それはジークフリート側も似たようなものだろう。
思うより狭い空間を認識したことにより、少しだけ気まずさが沸き上がった気がした。
(何か話すべきかなぁ……)
思えば、そもそもサーヴァントと二人っきりになるなんて滅多にない出来事である。ましてやジークフリートは最近召還されたサーヴァントであり、共に出撃するのも数回程度。彼自身人付き合いが積極的な方ではないため、食堂で顔を合わせる機会もそう多くはない。
(な、何話せば良いんだろう……)
何も思い付かない。万事休す。
こういう状況だからか、はたまた相手が相手だからか。話題の一つも出てこなかった。それが、次第にリツカに焦りを覚えさせる。
「どうかしたのか、マスター?」
「えっ?えええ、いや、な、何でもないよ!」
まさか話しかけられるとは思っておらず、急に聞こえた声に肩が跳ねた。どんだけビビりなんだ私は。見えてないだろうに、気恥ずかしくなり壁の側まで歩くとそこに背を預けた。
(ふう……)
ひんやりとした壁の冷たさが心地好い。少しだけ涼しくも感じる空気の冷たさが、テンパっていた心を落ち着かせてくれる。
「具合でも悪いのか?」
「ひ、あ!」
いつの間に目の前に立っていたのか。額に触れる温もりに、変な声が出てしまった。感触から察するに、これはあれか、おでことおでこを合わせて熱を測るというあれか?あれなのか??
(って、それって!)
それはつまり、たった今、ものすごく近い距離に顔があったという事である。見えてないのが救いだが、見えていたらどうしたものか。顔が赤いのがバレてしまう。
「マスター、やはりどこか……」
「だ、大丈夫!大丈夫!ちょっと暗すぎて見えないのにいつの間にか近くに来てたみたいだからびっくりしただけ!」
「む、そ、そうか。驚かせてしまったようだ。すまない……」
(あああああ私は何謝罪させてしまってるのか!周囲の空気が一段と重くなった気がするぞ!)
緊張が高まる。今、二人の距離はどれくらいなのだろう。変わらないままであれば、きっと手を伸ばせば触れられる距離に違いない。ドキドキと、脈打つ心拍の音が聞こえてはいないだろうか。
もしも触れたら、もしも聞こえていたら。気付かれてしまうだろうか。どう思うだろうか。
「マスター。」
「えっ、あっ、はい、何でしょう?」
「その……少し、言いづらいのだが……」
ドキ、ドキ、ドキ。強く鼓動する音が焦りを増す。期待している自分が居る。知られてはいけない恋心が、頭角を見せようと主張している。
「触れても、良いだろうか?」
「え?ええええ、うん!良いよ全然!」
言い終えて数秒。それくらい経ってから、私は漸く彼の言葉の意味と自分の返事を理解した。
「ジ……、っ!」
「俺だけでは不安かもしれないが、俺はここに居る。何が起きようと、俺はあなたのサーヴァントだ。守ってみせる。だから、俺を信じてはくれないか?」
全身に伝わる温もりと、鎧の冷たさ、頬に触れる髪の毛がくすぐったくて、抱き締められているという感触。
「え、えと、あの……」
「すまない。もう暫し、このままで居させてくれ……」
「う、うん。」
彼も緊張しているのか、少しだけ強められた腕の力に不思議と嬉しさも込み上げた気がした。
どうか暗闇よ、私の表情を隠してくれ。