最終章のネタバレを含みます。
「雑種、我は暇だ。何か面白い話はないのか。」
「えっ?」
食堂の隅に陣取りぼんやりとしていると、背後からそんな声が響き肩が跳ねた。慌てて振り向けば、やはり思った通りの声の主が、その反応に不機嫌そうに立っている。
「何を驚いておる。」
「え、い、いや、だって……」
最終決戦、あの日から早くも数日。居座る理由は無いからと、ほとんどのサーヴァントたちは各々の在るべき場所に帰ってしまった。あまりにも唐突に静かになってしまった食堂を見て驚愕したのは、一度や二度の話ではない。
「声を掛けてくれたら何時でも来るから。」
そう残して、みんな居なくなったのだ。もちろん全員がそうって訳でもないのだが、少なくとも後ろに立つ彼は真っ先に戻るだろうと、そう思っていた。
「まだ勘違いをしておるようだな、雑種。我は自分の意思でここへ来たのだ。残るも帰るも我の自由よ。」
「あ、はい。」
ピシリとそう言いくるめられ、無意識に背筋が伸びる。それでも顔を見ることが出来ず、つい俯いてしまう。
「顔を上げよ。」
「……っ、それ、は……」
彼の声が、言葉が、まるで駆け抜けたように過ぎ去った日々を思い起こす。神代での彼の姿が脳裏に焼き付いて離れない。ウルクの危機だからこの姿で現界した――そう言っていたのを思い出し、尚ここに残っていることに疑問を感じる。
否、そうではないのだ。
「もう一度我に言わせるか。顔を上げよ、マスター。」
小さく息を吐き、ギルガメッシュはそう続けた。ゆっくりと、顔を上げる。ポタリと、生暖かい水滴が組んだ手の甲に落ちる。
「泣くほどのものでもあるまい。」
「だ、だって……」
呆れたように笑みを浮かべ、ギルガメッシュはリツカの瞳から溢れる涙の滴を指で拭い取る。そのままリツカの頬を手で包み、じっと見つめる。
「そんな顔をされれば、我も帰るに帰れぬであろう?」
「ギル……?」
「なに、お前と居れば退屈はせん。そう思ったまでのこと。せいぜい我を飽きさせぬように励むがよい。」
言葉を続けようと思ったが、ギルガメッシュに頭を強く撫でられ、言い出すタイミングを逃してしまう。気付いた時には彼は食堂から出ていく所で、その後ろ姿をただ見送るだけとなってしまった。それでもさっきまでの沈んだ心はもうなくなっていて。
「ありがと、ギルガメッシュ。」
始まりの詩
まだ、きっと始まったばかりのものもある。だからこんな所で立ち止まってはいられない。やるべきことは、きっときっと沢山あるのだから。