Secret garden
「きゃああああーー!」
「おっと。こりゃ、どうやら本格的にヤバそうだな。急ぐぜ!」
凛の残したエネミーを倒し、その気配を追ってシールドへと向かう。その最中響いた悲鳴に、再び緊張感が走る。
「いや、いやぁあああ!お願い、助けて!もう逃げないから!」
「なんじゃ、骨の無いやつじゃのう。まあ、まだ骨抜きにはしておらんのじゃがな!」
聞こえてくる声はNPCと、もう一つ。高笑いを響かせるこの声は、遠坂凛のサーヴァント、アーチャーのものだろう。途絶えた悲鳴に続く、電脳世界には似合わない生々しい血の匂い。
駆け付けた先には、赤いアーチャーの姿があった。
「ほう、脱走者を捕まえにわし自ら来たわけじゃが、予想外の客とはラッキーじゃな、わし!」
にかっと笑うその姿に、拍子抜けする。どうやら、近くに凛の反応は無いようだ。チャンスではあるが、合流されるかと警戒していただけになんとも言えない空気だ。
「何故そこで黙る!?」
さて、どうしよう。この少々反応しづらいノリのサーヴァントと一戦交えるべきか、様子を見るべきか。今回の目的は遠坂凛の観察、調査だ。彼女が居ない状況では戦っても実りはないのだが……
「よし、決めたぞ!わしの強さをここで見せるべきなんじゃな!天もそう告げておる!まあ、気がするだけじゃが……リンは"私の許可なしで殺すな"とは言ったが遊ぶな、とは言っておらぬから問題なかろう!」
なんというゴーイング まいうぇい精神!
このサーヴァントは黙っていても話し掛けても勝手に話を決めてしまうダイナマイトそのものだ!
「ちょいと、オタク、気持ちで負けてちゃ話になんないっすよ。」
「はははっ、言うではないか青いの!良いぞ、そうでなくては面白くないからのう!」
敵の構えに、ロビンも身構える。表情豊かで感情的な姿とは裏腹に、相手の纏う気迫は強者のものである。ヒュウ、と、一筋の風が吹き抜けた。
*
「なんじゃ、つまらんのう。同じアーチャーとしてもう少し楽しめるかと思ったのじゃが……」
「ちぃっ、なんだあの飛び道具。自動掃射とかマジかよ。ほぼチートじゃねーか!」
アーチャーの攻撃力はこちらを上回っていた。マスターを欠いた状態でこれだけの力があるのだ、もしここで凛がやってきたら、それこそ凌ぐ事さえ難しい。
「ほう、わしの自慢のこやつが気になるか?気になるのじゃな?気になるのじゃな?良かろう!そんなに知りたいと申すなら教えてやるぞ!これぞ、天下に武を敷くわし自慢の南蛮渡来の火縄銃!そしてこのわしこそ、第六天魔王、お……」
「バカバカバカ、そこまでよアーチャー!真名を明かすとかなに考えてんの!?」
敢えて黙っていたのだが、やはり止められたか。凛の登場が無ければ、あのアーチャーはそのまま真名をバラしていたのだろうか。それより、この状況で敵戦力が増してしまった。勝ち目はおろか、逃げる事さえ絶望的だ。
「おっと、そうであった!忘れておった!」
「真名だけじゃなく、能力はぜんぶ秘密!アンタ、他に妙な事口走ってないでしょうね!?」
「それは大丈夫だ、問題ない。安心しろ、リン!」
なんと保証の無い安心だろうか。
「南蛮渡来の銃に、魔王がどうとか。それだけでもかなり絞られるんじゃないですかねぇ?」
「ああー!しっかりバラしてるじゃない!」
「わし有名だからの!是非もなし!」
なんだろう、敵ながら憐れに思えてくる。
「はあ。先に帰っていて、アーチャー。こんなザコ、相手にする必要もないわ。」
「むう……まあ、よかろう。ここはそなたの城じゃからな。」
凛の命令で、アーチャーはあっさり退出した。おそらく彼女たちの本拠地に転移したのだろう。そして間違いない。凛は遠回しにこちらを助けてくれた。その思惑はどうあれ、ピンチに陥った私の命を見逃してくれたのだ。
「ふ、ふん。なにその目。いいこと?私は弱いものいじめはしないって言っただけよ。ぜっったいに勘違いしないでよね!私は貴方のコトなんて、なんとも思ってないんだから!」
ドクン。左手に、脈打つような熱い電流が走る。ありきたりのような、それでいて聞き覚えのあるニュアンスの台詞が彼女から紡がれる。
「あーあ、こりゃ、流石としか言えませんわ。」
再び、ドクンと左手が疼く。キアラに譲渡された術式が鳴動している。ああ、これが……
凛の胸の奥に光輝いて見えるのが彼女の秘密、というものなのだろう。まるで引き寄せられるように、両足が地を蹴っていた。刹那、凛の胸の裡に秘められた嗜好が、閃光のように脳裏に走り抜けた。
「っ、な、なによ、今の……」
突然の事に困惑する凛の背後で、シールドが破壊される。彼女の体が、次第に薄れていく。
「くっ……分身が、保てない……無敵のはずの欲望を消す秘策を持っていたなんて……」
凛が恨み節全開で睨み付けてくる。勝負はここからだの、私は四分の一にすぎないだの、それこそ訳がわからない。
「いいこと。なんで負けたのかは分かんないけど、最後にこれだけは言っておくわ。ここで消えるのは私の都合だから!アンタのためじゃないんだからねっ!」
やがて、凛の体は散るように消えていった。
『えーと、とにかく、今の凛さんの反応はほぼ消えました。迷宮からの生命反応は依然としてありますから、命に別状はないかと。』
空気を切り替えるように、桜が話の締めを作る。秘密を摘出する、という行為に不安があったが、凛本人に怪我など無いのなら安心である。
『リツカさん、一度帰投を。今後の方針を決定しますので、休息して疲れをとった後、生徒会室で合流しましょう。』
「了解。じゃあ、まあ、一先ずお疲れ様。」
『お疲れ様です。』
通信を切り、設置された端末から旧校舎へと帰還する。やはり、何だかんだで疲れた1日であった。マイルームに戻り体を休めた途端、急速な眠気に襲われる。おやすみさえままならないまま、意識は睡魔に呑まれていった。
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