Basement-2
「「はーー…」」
ジナコ=カリギリによって追い出された廊下に立ち尽くすなり、ロビンと深い息が重なる。まだ朝だというのに、どっと疲れた。
サーヴァントを持つマスターを仲間にしたい。そういう方針から改めてジナコに生徒会へ顔を出すよう話し合いに来たのだが、徒労に終わってしまった。いや、そうせざるを得なかった。
カルナ。ジナコは、自身のサーヴァントの真名をあっさりそう明かした。彼女はとうに聖杯戦争に興味は無く、外に出るつもりは無いのだという。彼女はカルナをハズレサーヴァントと言うが、彼の静かなその闘志は明らかにこちらを上回っている。そんなカルナの誠実な嘆願により、手を引くしか私たちに選択肢は無かった。
だが、最後の最後にジナコは生徒会会議にモニターからの参加は認めてくれた。それだけが救いである。いろいろと、圧倒的な話し合いだった。
「ま、予想通りといえば予想通りっすわ。」
「んー、まあ、そうだね。」
言われれば本当にその通りなのだから言い返す言葉もない。不安は残るが、今はロビンを信じて二人で頑張ろう。
新しい階層に入る。少し進んだ先で、凛はこちらの到着を待ち構えていた。
「やっぱり来たわね、リツカさん。注文通りの行動、ありがとう。外に出たいならこの奥に進むしかないわ。でも、ご覧の通り通路には邪魔者がいるわ。コイツを倒して先に進めるかしら?」
そう言って凛が喚び出したのは、特別製の敵性プログラムである。これまでのエネミーとは違う、大型のタイプだ。通信越しに、レオが戦闘を避けるよう促してくる。
「へえ、今の声ってレオ?あいつも旧校舎に放り込まれたんだ。レオの言うとおり、コイツはかなり手強いわよ。今のサーヴァントじゃ倒すのは難しいかもね。」
くすりと、凛は笑う。だが、それは挑発あってのものではない。何かを提示するための、企みあるものだ。でも、と凛が続ける。
「でも、今回は私が助けてあげる。魚心あれば水心ありってね。貴方が誠意を見せるなら、私がコイツのレートを下げてあげる。そこに私の口座に直結した端末を用意したわ。楽をしたかったら指定額を振り込みなさい。名付けて、遠坂マネーイズパワーシステム!」
な、なんだってーーー!?
なんという単純なシステム。安直なネーミングセンス。ついうっかり聞き返しそうになってしまった。ロビンが必死に笑いを堪えているのが分かる。
「ふふふ、あまりの恐ろしさに声も出ないようね。私はこれで失礼するわ。後は貴方次第。じゃあねー!せいぜい私の預金を潤しなさい!」
楽しげな笑いを残し、彼女は去っていった。言うだけ言ってなんとやら、である。
「それで、どうするんです?」
「聞くだけ野暮だよ、グリーン。」
「だからグリーンはやめろっての!あーもう、仕事はきっちりやりますとも。」
*
彼女の斜め上に発揮される多才な才能を実力行使で突破し、遂に迷宮の奥へとたどり着く。むしろルートとしてはただひたすらに真っ直ぐだったが。驚きと悔しさを携えた表情で、遠坂凛が姿を見せる。
「く、まさかと思って駆け付けてみれば、無課金でアイツを倒すなんて……!ふん、いいわよ、別に。悔しくなんかないですよーだ。どうせこの壁があるかぎり、先には進めないんだから。」
そう、遠坂マネーイズパワーシステムなんて、趣旨を見失ったイミフなイベントにすぎない。道を遮るシールドこそ、難攻不落の壁だ。
「一応聞くが、オタク、ここまで金に執着するのは本当に贅沢なアーチャーを養うためだったんすかねえ?」
「え?なんでアーチャー?別にあの娘は関係ないけど?私、単にお金が好きなだけよ?」
ロビンの質問に返された答えに疑問が沸く。
ん?どういう事だ?
あの謎システムイベントの最中、凛はアーチャーの散財が酷いとかなんとか言って無かったか?
「自分でもどうかと思うけど、山のようなお金を見るとちょっときゅんとくるの!今まで誰にも……いえ、恥ずかしくて絶対に言えなかったけどね 」
話に興が乗ったのか、凛はペラペラと言葉を紡いでいる。金の亡者ともまたニュアンスが違うだろうが、要約すれば拝金主義か。そう思った矢先、左手に電流が走る。急かされるように体が軽くなる。あれが、彼女の心の隙間。
「ええ、嘘ぉ!?またプロテクトが破られた!?」
破壊されたシールドに、凛が衝撃を受けている。だが、彼女もそう簡単には消滅しない。キッと此方を睨み付け、令呪の刻印された腕を此方へと伸ばす。
「こうなったら遊びはなしよ。来なさい、アーチャー!今度は本気でやらせてあげるわ!」
「苦しまぎれに奥の手を呼ぶとはねぇ。完全な負けフラグと見た。」
ロビンの激励に気持ちを引き締め直し、互いに構える。一度目はまったく歯が立たなかったが、今ならあるいは。そう思うも、敵性反応が増える気配は無い。
「アーチャー?」
『悪いがリン、わしは今忙しい!この格闘げーむとやら、なかなか奥深くてな。そうじゃ、リンも一緒にやらぬか?対戦ぷれい、なるものもあるようじゃぞ!』
凛の問い掛けに、アーチャーが楽しげに返す。通信が丸聞こえなのだが、もはや凛も気にしないようだ。そういえばあのアーチャー、我道を通す性格だった。
「……まあ、今回も見逃してあげるわ。覚えてなさい!アンタたちを捕まえたら、拷問室でもうすっっごいコトしてやるから!」
凛の姿が薄れていく。秘密を摘出された事で、分身が保てなくなったのだろう。SGも判明したし、戦闘が無いならこれで痛み分けで良しとしたいが……
「ちょっとタンマ!拷問室と言ったが、アレ、本当にオタクの趣味なのか?」
酷く真面目に、ロビンが凛に問う。そうだ。あの、人を人とも思わぬ拷問室。正気の人間なら、あんな地獄を容認するハズがない。
だが、彼女はすんなりとそれを認めてしまった。
「もちろんよ。捕まえた奴隷は閉じ込めるものでしょう?せっかくスキルに溢れているのに、寝かせておくのは勿体ないわ。だから強制労働させているだけ。」
「強制労働?あの惨状を見てそう言い張るとは……いや、オタク、もしかしてアレを見ていない?」
食い違いによる違和感に、こちらが見た拷問室がどなものだったか説明する。凛は、怪訝な表情を浮かべるもただ静かにそれを聞いている。
「貴方たちが嘘を言っているかどうか……は、私が確かめればいいコトか。でも、確かにアーチャーならやるわね。そのマスターとNPCは解放しておくわ。アレがそういうサーヴァントだって知っていたのに放置した私のミスだから。」
やはり、遠坂凛は遠坂凛だった。今は隠していた嗜好が前に出てきているが、だからといって彼女の根底にあるものが変わる訳ではない。
「ずいぶんと買い被られたものね、私も。まあ、でもだからといって、気安くしているのなら死ぬだけよ。」
それだけを残し、凛の分身は砕け散った。
mae | tsugi