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夢はどうしてかなかなか覚めない。
今だってまた母である女が任務がどうのと父であろう男と言い合っている。
何もかもを終わらせるにはどうしたらいい?
組織に関わりたくない一心で普通の子どものふりをする。なんなら少し出来の悪い子どものように
ただ本当に小さい頃はどうやって家族に接していたかなんて覚えていないので、必死でバカのフリをする俺はさぞ滑稽だろう。
嘲笑してくれる相手もいない
少し成長して、また父と母が言い争っている。俺を学校に通わせるか、研究員の子どもの相手として組織に関わらせるか否かである。
結果として、自分から必死に普通の学校に行きたいと打診した甲斐もあるのだろうかと思ったが、出来の悪い子どもを宛てがって何かあれば自分たちの子軒に関わる、ということになった。
普通の子どもと同じ様に学校に通う。でも、家に帰って両親がいることはない。二人とも仕事だし、二人とも俺に興味はない。だって、出世の役には立たないのだから。
大きく感じる玄関を首から下げた鍵で開ける。スクールバッグを投げてて晩ご飯の準備をする。今日もインスタントラーメンだ。部屋は散らかってはいない。物がそもそも少ないのだ。
ただ、掃除はできていないので汚い。ゴミは捨てる様にしているが、子どもの背丈で運べるサイズは限られている。風呂だって入れる。あまり帰ってくることはないが活動拠点がここであることは変わりないので家賃は引き落とせている様だ。
それでも組織の中で銃をバラしたり、設計図や機密情報を覚えさせられたり変装した人間を探し出すよりはよっぽど幸せだった。学校に行く、授業を受ける。初めての体験だった。勉強はもう知っていることばかりだったが、みんなで考えるというのも音読をするのも初めてだった。宿題や規律を守りましょうと魚の群れの様にみんな同じことをするのは意味があるのかわからなかったが、面白かった。給食だってあったかいまま出てくるし、みんなでわいわい囲む食事は楽しいのだと知った。
学校の先生は、初めて出会った無条件で受け入れてくれる大人だった。構成員の子どもでも、便利なガキでもなく、殴るでも威圧感で抑えるでもなく。寄り添うとはこうも暖かいものなのか。仕事だからなのかもしれないが、初めて示された愛情というものが心地よかった。
そこで出来た友達の言う“優しい両親がいて”、“時々どこかに旅行へいく”、“祖父母がいる”、“家の中でも年間行事がある”といった普通には当てはまらないだろうが、俺にとってはこれだけで充分幸せだった。
アレとかそれとか、ガキとかじゃなくてスイと呼んでくれる人たちがこんなにもいるのだ、このこんな幸せはない。
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